天と地の間

クライミングに関する記録です。

山の口谷100m滝、4ピッチ オールフリーで完登

2024年10月14日 | 
市房山頂へと至る山之口谷を遡行したのが12年前、途中の100m滝を仰いだ時に、これは登れそうだ。いつ
か登りに来たいと思いながらも年月が流れた。
年齢的にも今年が限界だろうと、相手を探った。
第一優先はこの滝を見たことのある人、そして当然、指向性のある人。該当は3人。しかし、その内の折〇君
は転勤。片〇君は行きたいが休みが確定できないとのこと。残る熊本の山本君に話をすると、私も行きたいと
思っている所という。理想は3人だが、身近には他に見当たらない。
2人で行くことに決めてから計画するも、豪雨や台風で3、4度延期した。やっと天気が安定した10月11日に
決行としたが、急に気温が下がってきた。長雨も続いている。覚悟がいるだろう。

7時、入渓点近くまで行くと、民家から犬がついてきた。
ザックを担いでふと見ると、杣道の入り口で待っている様子。我々が歩き出すと、先導して歩いていく。案
内してくれるのだろうか。
道はすぐに途切れたが、我々にとっても楽なルート取りでひょこひょこ迷いなく歩いていく。遅れれば振り
返って待ってもくれる。真にガイド犬だ。
目的の100m滝まで2時間近くも案内してくれた。
お礼にチーズかまぼこをあげたが食べてくれない。撫でようとすると避ける。
とてもシャイな女の子だ。
しばらくすると、慣れて来たのかチーズかまぼこをやっと食べてくれた。体力もかなり使ったはず。帰りの
ことを考えるとひと安心だ。
ここでワンコとはお別れ。一人で下山させるのが申し訳ない。


優しい顔つきのワンちゃん。待ってくれている。
短いしっぽが特徴だ。


先導して歩いてくれる。時折、地図で確認すると方向は間
違っていない。行き先は言わずとも分かっているようだ。


滝を真下から撮影。

滝を見上げると、「こうも立っていたか、水量も多い。行けるだろうか。」と印象は一転。過去の自分がうそぶい
たのか、それとも12年の年月で心身ともに退化したのか、滝に威圧されたのが正直なところだ。
しかし、何もせずに敗退は出来ない。なにしろ大分から麓まで一人で5時間運転し、ここまで重い荷物に喘いで
もきた。
とりあえず、1ピッチ登って、様子を見ようと、私がトップで取り付く。


ロープを延ばす私。
ここから激しい水流に向かう。

滝の近くはさして苦労もなく進むも、滝に近づくと水流でカムをセットする箇所が判別できない。手探りで
セットしても効いているか目視できない。ここは経験と勘で行くしかない。
カムを信じて、怒涛の水圧に堪えながら思い切って、滝の下をトラバースする。なんとか剝がされずにすんだ。
このピッチで最も緊張する箇所だった。
予定していた箇所でビレイ点を作って、セカンドを待つ。
ここまで来れば、もう行くことしか考えない。彼もそのようだ。
後はルート取りを慎重に見極めなければならない。間違えればとんでもないことになる。


滝のトラバースへと入る手前の山本君。ここは気合がいった。


普段の水量ではないだろう。



2ピッチ目は山本君に交代
滝へと回り込む箇所が悪そうだ。実際、私がセカンドで行く折に、よく行ったなと思うほど悪い部分だった。
ビレイ点直下に打ったハーケンは良く効いている。小型タガネで何度も上下に打つと、なんとか回収。
3ピッチからは私
ここは比較的大きなホールドが多いものの、如何せん、岩質が悪い。砂岩質特有のスレート状の割れたホー
ルドが多い。思いっきり掴むことはできないし、足も安易に乗せられない。落とせばビレイヤーに直撃しそう
だ。だましだましの前進といったところだ。
当然、プロテクションを取る箇所も限定される。フォールすれば、ナッツやカムが岩を押し開きそうな箇所が
多い。確実に効く箇所を入念に選定し、プロテクションをセットして、水が落ちてこない狭い凹に入り込んで、
ここをビレイ点とした。
4ピッチ目、最後のピッチだ。ここからは山本君に交代
ここまでは緊張感で寒さはさほど感じなかったが、ビレイ中に震えが止まらなくなった。状況を見ようと凹から
少し体を出すと怒涛の滝。さながら映画の中の弾の飛び交う塹壕のようだ。
トップはというと、順調にロープを伸ばしていく、滝の落ち口近くは樹林帯へと逃げ込めそうだが、果敢に落
ち口で粘っている。流石だ。飛沫とともに、緊張感が伝わってくる。
飛沫を浴びながら震えていると、突如、飛沫が止まった。
見上げると彼は落ち口に立っていた。


終了点の落ち口へと登る私。
落ち口はやや被っていた。



側壁にへばりつく私。

1人が2ピッチずつ担当、4ピッチ、オールフリー。そして残置物なしという理想的な内容で終えることが出来た。
今回のような未知なるものへのチャレンジは何年ぶりだろうか。何も情報がない中での登攀は何物にも代えがたい。未だ余韻に浸っている。
こうゆう事が出来るのも、同じ思い、そして力のあるパートナーがいてこそのこと。あらためて感謝である。


無事に下りて記念撮影。
写真では小さく見える。
上部はやや被っているようにも見えた。

追記
滝には残置のハーケンもボルトも確認できなかった。昔に登られていれば、なにかしらの形跡があるだろう。近年に登られていれば情報がアップされているだろう。
初登かもしれないがさだかではない。

下山後、ワンコへの下山報告かたがた、ガイドのお礼に飼い主さんの所へ向かうと、ワンコが吠えて家人に訪問
を知らせたのち、出迎えに来てくれた。なんとお利口で優しいことか続いて家人も出てきたので、ガイドのことを話すと、飼い犬がそういう事をしているのが以外そうであった。
名前はクロちゃん、歳は10歳を超えているとのこと。
放し飼いで周りは野山。犬にとっては理想的な環境だ。その反面、ここはぽつんと一軒家。周りに遊び友達が
おらず、いつも一人で遊んでいるのだろう。
それにしても、10歳を超える歳での今回の行程は、退屈しのぎで出来ることではないだろう。ありがたいガイ
ドであった。
次回来るとすれば完全遡行で来るときだろう。それまで元気でいてほしい。また会いたい。
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ムコウカマド谷遡行 2022 8/20〜21

2022年08月22日 | 
たまにはゆっくりと沢泊をしようと、土日で椎葉の上の小屋谷に入る計画を立てたが、あいにく雨
の予報。大分県側はまだましだろうと、急遽、傾山頂近くに延びたムコウカマド谷に入ることにし
た。
大分県三重町大白谷の公民館で熊本のメンバー3人と落合い、8時半、入渓。


ベニガラ谷と同様にナメの岩は赤い。





1050m辺りをテン場とし、仲間と焚火を囲んで焼肉に舌鼓を打ちながらのビール、焼酎は格別だった。
焚火が燃え尽きたのを頃合いに、雨具を着てタープの下でごろ寝するも、夜半過ぎより、凄まじい雷鳴を伴った土砂降りとなり、これが明け方近くまで続いた。
タープからは水滴が顔に滴り落ち、冷たいわ、雷鳴はあるわで、満足に寝れず、二日目の行程がきつくなるかと思ったが、無事に遡行を終えて下山した。


抜け口の水圧に押されて力が入った場面。




意外と悪かったチョックストーンの処理。




小休止しながら、攻略方法を考えたが、あっさり巻くことにした。


今回もご多分に漏れずに全員、ヒルにやられた。マダニ食いつかれなかったのが幸いというもの。

追記・・・一昨年、ベニガラ谷を一日で抜けたので、近いうちにムコウカマド谷も一日で遡行しようかと思っていたが、今回、泊の用意をしていたので、一泊二日でのムコウカマド谷に変更とした。結果的に一泊二日で正解であった。
沢はのんびりと急がずに遡行するのが良い。



一年ぶりの傾山頂。今回の遡行累積高度はおよそ1300m。


天気は回復傾向であったが、ガスって見通し効かず。


標高1000m辺りにいたガマガエル。
祖母・傾特有の種ではないだろうか。

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祝子川ゴルジュ2020 8/11

2020年08月17日 | 
サマン谷の後、竹田の温泉でゆっくりしながら、さて、明日はどうしようかと相談。雨はまだ降っている。
祝子の雨量計を見ると53㎝と昨日よりはかなり減ってきている。実際の水量を見てから判断ということで明日は
祝子川ゴルジュに入ることにした。

8月11日、山の日にして私の誕生日である。今日のメンバーはUさん、アリキチ君、徳さん、私の4人。登山道入
ると、祝子川を流れる音が大きい。木々の合間から川をうかがうと、やはり、かなりの水量である。
8時40分、入渓。なんとか行けそうだ。さあ、行こうとした矢先、40mほど先の岩に黄色スズメバチの巣がある
のが目に入った。巣の周りは蜂が飛び回っている。入渓早々、左岸へと回り込み沢を巻いて回避する。


川のど真ん中に作っているのを見るのは初めてのこと。
蜂にとってはリスクがありそうな場所に見えるが。


一見、穏やかに見えるが・・・


いよいよゴルジュ。リードするはアリキチ君。


怒涛の如く流れ落ちる水。
右壁から落ち口へとトラバースする箇所が悪かった。
ものすごい水圧の中、よくみんな行けたと思う。





第二の核心に向かう私。
一見、右が弱点のように見えるが、持ちこたえられないほどの水流。


ここまで水量が多ければなるベルブリッジで高度を稼ぐしかない。
きついブリッジを強いられる。


普通ならば、右壁から行くところであるが、水量が多く、どう見てもいけそ
うにない。そこで左から抜けることにした。
傾斜の強いスラブへ立ちこみ、落ち口へと抜けるねらいであったが、右足を
水流に足をすくわれる。5分ほど留まって、何度か試みたが不可能と諦め、
右に突破口を見出すことにした。


一度落ち口に両手を添えることができたが、水圧で体を引き上げることができない。それどころか、も
たもたしているうちに保持もできなくなり、激しく落下。
一人では水圧に抗うことはできないだろうと、アリキチ君を呼ぶことにする。幸い、水がかからない退
避場所が奥にある。彼が来ると入れ替わり、しばし、降り注ぐ水に我慢をしてもらい、にショルダーで
何とか上へと抜けることができた。


いつ来ても清流が迎えてくれる。ここへ来るとホッとする。

今回はいつにもまして水流が激しく、何度か水中に叩き落さた。撤退も一瞬、頭によぎった。どうにか突破する
ことができたのは皆の協力のたまもの。
苦労も楽しさも共有できれば酒の場もまた楽し。





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祖母山系サマン谷

2020年08月14日 | 
9日に比叡で登った後、スコールのような雨が降り出した。降っては止みの繰り返し。これでは明日の祝子川が
思いやられる。
予報を見ると明日もかなりの確率で雨となっている。祝子の水位計は91cm。これではゴルジュは無理だろうと、
雨の確率の低いサマン谷へと変更した。
今回のメンバーは大分からは私。熊本から4人


2段の釜 自然の造形美だ

サマン谷は初めての沢。初心者を連れていくには程よい沢と聞いていただけに、期待はしていなかったが、予想
に反して渓相は素晴らしいものだった。形のいい釜が多く、ゴルジュもある。


おなじみゴルジュのチョックストーン。
こういう箇所をくぐるのはなぜか楽しい。



順調に遡行していくと、眼前にこれはという滝が現れた。登れないことはなさそうだが、水量が多く、かなり難
しそうだ。登攀意欲をそそられる。微妙な決断のはざま。今日の仲間のサポートがあれば行けるだろうと、取付く。
1段目に、古いハーケンが打たれてある。しかし、錆びて体重を預けるには心もとない。3度ほどフリーを試みたが、
フットホールドが乏しいうえに、水圧に抗うことも出来きない。セカンドの補助を借りて、何とか1段目に立つこと
ができた。2段目も同様の方法をとり上がった。
だが、一番の核心は最後のトラバースであった。ビレイ点を作れない。手掛かりはない。落ちられないという状況で
よけいに緊張する。右足を水の流れ落ちるスラブへ飛ばし、微妙なバランスで乗り込み、落ち口へとぬけた。


取付き以外にはプロテクションはない。巻く方が無難だ。


二段目に手を伸ばしたところ、ほぼ絶望的なほどのすべすべ


何とか越えて進むと、すぐに7mほどの滝が現れた。先ほどの滝より易しそうだ。しかし、水量が多く、すごい勢い
で落ちている。
滝壺へと必死に泳いで真下に行くもすぐに押し戻される。一度戻って態勢を整え、再び滝に近づいたが、猛烈な勢
いの水が耳へ続けざまに入り、戦意喪失。ここはあっさりと巻くことにした。

サマン谷は最後の堰堤と距離の短さを除くと、実に魅力的な渓相であった。終始雨が降ったが、その雨が気になら
ないほど楽しめた。これも頼れる仲間がいてのこそ。
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ケイセイ谷 遡行

2020年08月04日 | 
待ち望んだ梅雨明け、8月2日、祖母・傾山系のケイセイ谷に入った。
ケイセイ谷は傾の九折登山口(380m)より入り、笠松山(1522m)近くの稜線に抜ける谷。標高差もさることながら長さも申し分ない。「九州の沢と源流」には遡行時間7時間~9時間とある。
近年、類を見ない豪雨の梅雨だっただけに、沢はかなり荒れているだろうと予想していたがまったくの杞憂。水量も梅雨明け直後のわりには多くない。
しかし、慎重に越したことはない。今季二度目の沢だけにまだ足がこなれていない。慎重に進むことにしよう。


ケイセイ谷に架かる青橋。ここより入渓。

入渓してすぐにニホンカモシカに遭遇。距離にして4mの至近距離。しばし見つめあった。
祖母傾も他の地域同様、鹿の食害防止のフェンスが張られている。仕方のないことだがニホンカモシカにとってはとんだとばっちり。自由に山を行き来できず、生息域が狭められていくのではないかと、心配なところだ。
彼らのこと、鋭い蹄で鹿の行けない急斜面や岩を飛び回っていると思うが。


ばったり出会って、思わず声が出た。
侵入者はこちら、向こうはもっと驚いただろう。 申し訳ない。


長い体毛、鋭い爪、そして角。
九州の山、それも大分の山にに生息していることに感動をおぼえる。
環境悪化の中、この先も無事に生息し、個体数を延ばすことを願わずにはいられない。




シャワーを浴びながら快適に登る。


巨岩が重なって出来たトンネルを落ちる水。こういう箇所があると、なぜか通りたくなる。


ここは正面から。カムが効き、快適に突破。2段目が被り気味になり、
意外に悪い。ジャムで乗越す。


さすがにここは左より巻いた。


傾斜の強い狭いゴルジュ。
横たわっている倒木は直径70㎝ほどの巨木。
左の壁は苔、右は巨木の苔で滑る。
結局、ここが最大の核心部だった。

沢は明るく、飽きさせない滝の数とスケール。何といっても、よかったのは崩れた炭焼き窯をのぞいて、人造物に出くわさないことだった。橋や林道が横切ることもなかったことだ。
天気に恵まれ、最高の沢になった。

遡行距離 8.8km、遡行時間5時間27分
下山距離 6.2km、時間2時間27分
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