これまで、手付かずだった比叡Ⅱ峰奥壁の三つ子ハングの開拓をしようとI辺さんと比叡に入った。
三つ子ハング基部までは、最近引かれた右ルートバリエーション(2ピッチ)をとることにし、取りあえず今日のところは基部までデ
ポに上がることにした。
1,2ピッチ共にリードしたが、1ピッチ目はなかなか秀逸なルート。10c位はあるだろうか?核心が2箇所ある30mのルートである。2ピッ
チは、残念ながら基部まで行くためのプロテクション無しでもいけるようなアプローチルート。
ルーフ基部に明日の開拓に備えて、ギア、工具をデポした後、狙っている三つ子ハングの1番目と、2番目の間のコーナーを覗くと、ク
ラックがジャムが良く効きそうなサイズに見え、また、コーナーから下りている壁のスタンスが使えるため、グレードはかなりひくく
なりそうで少々落胆する。
千畳敷より撮影
赤の矢印が3ピッチ目の予定ルート
8月30(日)
メンバーにK山君が加わり、今日は日が当たるまでにルーフの部分を解決しようと早めに出発する。
アプローチは大したことはないが、暑い。昨夜のビールが噴出すような勢いだ。
クラックに見えるが。
1、2ピッチをI辺さんリードの後、3ピッチ目、いよいよ開拓が始まる。私のリードで枝を払いながらルーフまで行くと、なんと!ク
ラックが無い。昨日確認した手ごろなサイズに見えていたクラックは、黒いコケが遠目にそう見せていたのである。ルーフの末端まで
は3mぐらいで短いが、何も無ければ絶望的である。コケを掃除すれば出てくるかもしれないと、鋸で基部のコケを払いながら突いて
も岩の感触しか伝わってこない。鋸をピックの付いた鍬に切り替え突いていると、何とかカムをセットできるクラックが何箇所か現れ
た。しかし、ジャムを聞かせることが出来るクラックは限られ、しかもフレアーしている。だが、ルーフから下りている右壁のホール
ドを使えば何とかなりそうである。プロテクションをとった後、試登すると、どうにかムーブはつながった。
ルーフ基部で掃除中の私
何とか越えたが
ルーフを越えて、15m程、右上ししたところにある松の木でピッチを切ろうと上がって行くと、クラックに詰まった草付きで、ホール
ドが乏しいため、土の中に汗まみれの指を差込み進むも、滑っていつ落ちるかきわどい状態。2m先には、直径5cm程の木の枝がこち
ら向きに張り出しており、これに飛び移ろうかとも頭をよぎったが、根元ならともかく、離れたところであれば持たないだろうと、考
えを改め、また、じりじりと進むがとうとう限界が近づいてきた。このまま落ちるよりましかと、イチかバチか片手で飛び移ると枝は
大きく上下にしなる。祈る気持ちでしなりが治まるのを待って、恐る恐る枝の根元に近づき、体を引き上げたときには、吹き出た汗と
冷や汗の入り混じった体で喘ぐことしきりであった。そして、つくづく思った。「こんなことをしていたら、いつかはジョーカーを引
くだろう。それも近いうちに。」
夕方が近づいてきたので、松を支点に懸垂で下りようと思ったが、10m下でスズメバチが、群れをなして飛んでいる。なんてこった
!おそらく、蜂の巣の真上にいるようだ。ここから下りれば間違いなく攻撃されるだろう。後から上がってきた二人に相談のうえ、樹
林帯まで抜けることしたが、抜けるまで、ここも草付きでえらい目にあってしまった。
結局、樹林帯を左へと回りこみ、3ピッチの懸垂の後、再びデポ地点へと2ピッチ上がって、荷物を回収して2ピッチの懸垂。ライトを
灯して下山したときには7時を過ぎていた。
久々の大仕事になってしまった。
マルチの開拓では、とりわけ先が分からない場合、なんとも刺激的なんであるが、もっと慎重を期すべきであった。身にしみて分かっ
ているところであるが、今日は、先を急ぎすぎたようだ。
追記・・・・Ⅱ峰奥壁は、比叡の中ではアプローチがあるためか、といっても30分程度であるが、あまりルートが開かれておらず、当
然入っている人も少ない。しかし、壁は立っており、マルチ、クラック、ショートに魅力的なルートを多数引ける可能性が残されてい
る。また、ボルダーも良いものが点在している。