この手の開拓に入る人は少ない。とりわけ九州においてはドラッドクライマーは絶滅危惧種。何処に生息しているかほぼ分る。それゆえここの開拓も当初は単独で入った。
左が人形岩。肌色の岩の右手に二人取り付いているのが見えるだろうか。。
1ピッチに取り付く堤。被りの基部を右に回りこむ。
私はマルチの開拓はグランドアップを基本としている。当然、怖い目も見た。2ピッチ終了点のトラバースでは、行けばカムを効かせられるだろうと、祈る気持ちで突っ込んだ。ホールドが欠けて吹っ飛んだこともある。
それでも頭部に立つまではと2度、単独で入った。だが疲労度がすさまじく、開拓のモチベーションは徐々に低下していった。その後、何人かの力を借りて昨年9月にやっと、頭部に立つことができた。それからフリー化のために訪れた今日まで8か月の空白がある。強力な助っ人Tがいるが彼の休みが平日とあって来る機会がめったになかったことによる。
2ピッチをフォロー中の堤。快適なピッチだ。景色も良い。
28日、土曜日はT氏と二人で入った。フリー化のために今日はドリルもバックロープも持たずに来た。当然今日は軽い。軽く3ピッチ目まで来れた。問題はここから。いろいろとムーブ解決に工夫を凝らしたがすぐに指力がなくなりT氏と交替。彼も同様のようだ。地上を離れてすでに3時間ぶら下がっている。パフォーマンスも低下する。ビレイだけでもきつい。くわえて日も差してきた。もうこれ以上は無理だろう。秋へと持ち越そうと。エイドで行くことにした。
3ピッチ出だしの私。被り気味で最も困難な箇所。
人形岩の肩に立って小休止したのち、ここだけは解決しようと取付いたが、あと一手がでない。13を数本落としている彼をもってしても難しいようだ。替わって私が取付いたが同じくあと一手というところ。ここへ来るまでに指はもとより全身を使って疲労している。久しぶりのクラックとあってか、情けないことに彼も私も指がこむら返しを起こす始末。地上にあるボルダーならこなせないことはなさそうだが。頭部も次回の課題とし、撤収することにした。
4ピッチ、頭部に取り付く私。背面右端はニードル。かなり下に見える。今いる場所は標高600m
今回、フリー化もせずに公開するに至った理由は、ひとえに難易度。私の能力をはるかに超えているということ。そしてトライできる機会が少なく、このままではいつフリー化できるか先が見えない。ということから決断した。さらには公開することによって、トラッドクライミングが少しでも活性化すればという淡い期待である。1,2ピッチはグレードは易しい。そこだけでも良い練習になるだろう。九州以外から比叡に訪れる人は、フリー化を楽しみの一つとしてほしい。
公開したとはいえ、我々はフリー化を諦めたわけではない。ボルダー能力を高めて秋に戻ってくる。
ルート名【ソーンバード THORN BIRDS】の由来
Thorn Bird(茨の鳥)とはニュージーランドの伝説の鳥。生まれた時から棘のある木を探し求めて飛び続け、最も鋭い棘のある木を見つけると、その木のトゲに飛び込む。そして絶命する時に世の鳥の中で最もきれいな声を発するという。
一方、我々はというと、クラックの中の茨や松の葉で顔や手を突き、なんど悲鳴を上げたことか。落ちる刹那に奇声を発したことは数知れない。
アプローチ紹介。
比叡山頂へと上がっていくと神楽面を刻んだという岩屋の看板がある。そこより左へと入るとⅡ峰奥壁へと行ける。ここまでトイレ駐車場から15分。人形岩の取付きは神楽面の分岐点からおよそ15分。取付きに入る10m先が急傾斜となっている。人形岩への入り口は右手に20cmほどの看板を下げた。また7cmほどの黄色い反射板を要所要所に下げている。
分岐点、左側にある標識。岩屋へと向かえばⅡ峰奥壁へと行ける。向かいに下部の標識有。
岩屋へと入る分岐点右手にある標識。ここより左へと入る。
ルート紹介。
難しいところは2箇所がある。特に悪いところは3ピッチ出だし4mの箇所。フットホールドは乏しく、クラックはシンクラック。軽く12は超えているだろう。もう1か所は4ピッチめの頭部のフェース。これも12はありそうだ。
ロープ2本あれば懸垂1回で取付きまで下降可。頭部正面下部に懸垂用終了点を設置済み。
南面であるため、夏のクライミングは無謀かと思われたが風の通りがいいため、早めに取付き、昼までに切り上げれば夏でも十分に登れる。
使用ギアはキャメロット0.5~3を2セット。エイリアン青、緑、黄色。(青、緑は2セット)、ナッツ。
1ピッチ13m グレード9 各ピッチのmは目安
2ピッチ18m 10a
3ピッチ13m 12以上 想定
4ピッチ6m フェースルート。上部はカム必要。 12以上 想定
ルート図については、後日掲載予定。
注意点・・・人形岩のフレークは欠けやすいため、要注意。頭部から肩へと下りる際は、反対側に下りて回り込んだほうが無難。(傾斜しているために懸垂時にスタックする可能性があるため。)
最後に・・・これまで開拓に入ってくださった皆さん。お疲れ様でした。今度はフリー化で訪れてください。