中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

陽澄湖の大閘蟹

2007-11-18 09:53:21 | 中国のこと
 11月7日から1週間、上海から江南地方の蘇州、紹興、水郷古鎮の烏鎮、平湖などを訪れた。江南とは長江(揚子江)下流南部の地域で、昔から豊かな産物で知られている。その産物の1つに日本では上海蟹と通称されている「大閘蟹(ダジャシエ)」がある。

 今年の3月にH君夫妻と江南地方を旅した時にも、大閘蟹の産地として有名な陽澄湖(ヤンチェンフ)に行ったが、今回同行した彼らの友人のH君は初めてなので再度行くことにした。陽澄湖は上海に隣接する江蘇省(省都は南京)の蘇州市にある大きな湖で、大閘蟹の養殖が行なわれている。上海から2時間半くらいの所にあるから、大閘蟹の旬の季節には上海人はよく食べに行くようだ。

 上海浦東空港に到着後夕刻に出発したので、陽澄湖に着いた時にはもう日が暮れていた。陽澄湖には大閘蟹の養殖業者がレストランを経営している所が多いようで、今回は巴城(バチョン)という鎮に行った。湖畔にはレストランが林立している。


 それぞれ岸から沖に向かって太いコンクリートの柱を打ち込んだ基礎の上に建てられている。その中の1軒の仙舫(トンシャンファン)という店に入った。建物はずっと沖の方に伸びていて、非常に奥行きがある。舫は船の意味で、このあたりのレストランにはこの語のついた店が多いようだ。


 遠くまで続く通路の片側には個室が並び、通路の反対側には水槽がたくさんあって、沈められた鉄製の籠に蟹が入っている。それを取り出して客に提供する。




 食卓に着くと、雄蟹、雌蟹のどちらにするかと聞かれた。10月は雌が、11月になると雄が旬のようだが、雄は3月に食べたので雌を注文した。蟹はメインだから、その前に野菜や魚介類の料理をいろいろ注文するが、これがどれもなかなか美味い。

 やがて出された蟹を見ると3月の時よりも小ぶりだった。雌は雄よりも少し小さいようだが、それでもこれからはだんだん太ってきて、年を越すと値段も倍くらいになるのだそうだ。良い蟹は厚みがある。


 この蟹は日本の河川にもいて、かつてはよく食べられていたモクズガニの仲間で、英名をhairy crabと言うように、鋏に長い軟毛が密生している。


 2度目なので食べ方は心得ていたが、それでも無駄が多く、特に細い脚の身は食べにくい。運転手の李さんは生粋の上海っ子というだけあって、私達よりも時間をかけてきれいに食べつくしていた。

 ところで、現地では「上海蟹」という表示はまったく見られず、「大閘蟹」となっている。どうも上海蟹という名称は中国では使われていないように思い、東京にいる上海人の施路敏(シ・ルミン)に尋ねてみたら「(上海蟹とは)言わないですね」と言った。2年程前には陽澄湖大閘蟹業協会が日本で市場調査をした結果、陽澄湖以外の産地のものもすべて「上海蟹」としていて、陽澄湖大閘蟹のブランドイメージを損なうので日本への輸出を見合わせるとしたことがあったようだが、その措置が実際に行われたのかどうかは分からない。

 大閘蟹の有名な産地はこの陽澄湖だが、その他にも養殖が盛んな所は多く、上海市内の崇明島という所も大規模な産地になっているそうだ。しかし実際には浙江省や福建省などの沿岸地域で、産卵され孵化した幼生を小さな蟹になるまで飼育し、それを長江各地の養殖池に移して出荷できるまで飼育し、陽澄湖など各地のブランドとするようだ。ちょうど日本の兵庫県の但馬牛が素牛となって神戸牛や、松阪牛、近江牛、米沢牛などの銘柄牛が作られているようなものなのだろう。

 大閘蟹は旬の時期には上海ではかなり高価なようで、それで上海人達は陽澄湖まで食べに来るようだ。食べてみて美味しかったかと聞かれたら、やはり美味しいと言うほかないが、日本ではかなり高価なものらしく、ことさらに食べてみようとは思わない。海産の蟹を好む日本人は大閘蟹を食べて感想を聞かれたら、やはり海のものの方が美味しいと答える人が多いのではないだろうか。