蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

雪沼とその周辺

2007年09月03日 | 本の感想
雪沼とその周辺(堀江敏幸 新潮社)

雪沼はこじんまりとしているが良質のスキー場を持つ山間の町。その住人の平凡な暮らしを描く。
閉鎖間際のボウリング場の主人や書道塾の先生、木造家屋を改造したレコード屋、自分の腕に自信がない中華料理屋などが主人公の短編集。

不器用でどうしても自分が作る料理がうまいとは思えないコックの話がよかった。店の見習い三人のうち、他の二人は早々に独立するが、主人公は腕があがらず店に残るうち店の主人の具合が悪くなり、店を継ぐことになる。
店は大はやりするわけでもなく、主人公も料理に手間ひまかけるような努力をするわけでもない。しかし時として「うまい」と言ってくれる人がいるととてもうれしい。それで自信が生まれるわけでもないのだが。

ストーリーの起伏があるわけでもなく、テーマらしいものもないのだが、凡人の「あきらめきれない人生」とか未練みたいのがうまく表現されていて、大半が似たような境遇にある読者の共感を誘う。
コメント
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