蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

スーツケースの半分は

2019年07月06日 | 本の感想
スーツケースの半分は(近藤史恵 祥伝社)

大学の同級生、真美、ゆり香、花恵、悠子がそれぞれ主人公になって海外旅行の楽しさを描く短編集。表題の意味は、スーツケースの半分はあけて旅立ち、そこにお土産を詰めて帰ろう、ということ。旅慣れた人にはあたりまえのことなのだろうが、初めて聞いたので「なるほどね」と思えた。

出不精の私からすると、ミュージカルを見るために、旅慣れない真美が勇気を出してニューヨークへ一人旅に出かける「ウサギ、旅に出る」がよかった。
友人でバックパッカー的な旅のベテラン:ゆり香から真美へ送られた「まあ、生きて帰ってきたら成功ってことにしておこうよ」というメールがいい。

登場人物たちが(旅行に)持ち歩く青いスーツケースが、本当の意味の本作の主人公で、いろいろな人たちの間をスーツケースがわたりあるいていくプロセスが、興味深く読めるように工夫がしてあり、短編の連作がうまい著者らしいなあ、と思えた。
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彼女は一人で歩くのか?

2019年07月06日 | 本の感想
彼女は一人で歩くのか? (森博嗣 講談社文庫)

本作の英語でのタイトルは「Does She Walk Alone?」。それを直訳しただけなのだけど、タイトルの付け方がうまいよなあ。

本作では、細胞から培養された人間もどき(昔、特撮のテレビ番組の悪役のしたっばで「人間もどき」というのが登場して、子供心にとても怖かったことを思い出した。あれはマグマ大使だったか、光速エスパーだったか??)が登場するが、人間もどきたちの総称がウォーカロン(Walk Aloneの英語読みのカナ表記)というのもタイトルと絡んで、とてもハイセンスだと感じられる。
英語読みを生かすというのは森さんの得意技で、「スカイクロラ」とか「ナバテア」なんてのもカッコいい。

本作は、主人公のハギリ博士(学者としての著者を思わせるクールな言動をする)が、人間とウォーカロンを簡単に判別できる方法を考案したことから、謎の組織(ウォーカロンの反政府組織??)から命を狙われることになり、護衛役のウグイとともに逃亡生活を強いられる、という話。

著者らしく、余分な説明はほとんどなくて、読者の想像域を広くとっている印象。
余分な説明部分が好きな私としては、物足りない感じもあった。
しかし、世界全体で人口増加が止まり、桁外れに高齢化した社会が出現するという著者のビジョンとその世界で必然的に繰り広げられそうな事件を描くイマジネーションには、読み応えを感じた。

実際、あと数十年で世界の人口増加は止まる、という予想も聞いたことがある。
私が子供の頃はインフレこそが経済の敵でデフレが長期間続く社会なんて想像もできなかった。これと同様に、昔は(あるいは今も)人類は人口爆発を怖れていたが、本当に恐いのは人口が増えなくなっちゃうことだよね。人間という種の存亡が危惧されるという意味で。
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