蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

私の最後の羊が死んだ

2025年01月03日 | 本の感想
私の最後の羊が死んだ(河崎秋子 小学館)

著者の実家は北海道の酪農家でたくさんの牛を飼っていた。著者は(食肉供給を目的とした)羊の飼育に興味があり、農業試験場から貰い受けた年増?の雌羊から繁殖を進めていく。一方で小説家をめざして文学賞に応募しようと作品を書きためる。ただでさえ多忙だったのに、父が脳障害で倒れ介護まで担うことになる・・・という自伝風エッセイ。

地方紙主催の文学賞→受賞後の出版が約束されている三浦綾子賞→デビュー後も大藪賞など複数の文学賞を獲得→直木賞、と作家としてきらびやかや王道を歩んでいる著者。
一方で、本書を読むと、相当強気でプライドが高そう。本書ではそちらの方が強調されるが、ありがちな売れっ子のわがままというのとは全く違う、作家修行とは別の(都会育ちの遊び人作家にはない)ハードな人生遍歴に裏打ちされた自信みたいなものが感じられる。

前半が羊飼いの話で、後半になると作家になるまでのプロセスを描いているのだが、タイトル通り、羊飼いの話をもう少し膨らませてもらいたかった。
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ツイスターズ

2025年01月03日 | 本の感想
ツイスターズ

アメリカのオクラホマ州で竜巻の研究をするケイト・カーター(デイジー・エドガー・ジョーンズ)は、水分の吸収体を大量に竜巻に供給することでその勢いを削げるという仮説を立て、実際の竜巻で実験するが失敗し、恋人を含む研究仲間は竜巻で死亡してしまう。
5年後、唯一の生き残りの仲間のハビに誘われて再び研究を始める。竜巻を実況中継?するユーチューバーのタイラー(グレン・パウエル)がちょっかいを出してきて・・・という話。

前作(ツイスター)に絡むエピソードも出てくるが、独立した作品としても楽しめる。

竜巻来襲の場面は作り物とわかっていても、自動車や建物がぶっ飛んでいくシーン、何よりすぐそばにいた人が竜巻に持っていかれてしまうシーンは、DVDで見ていてもいわゆる「思わず声でる」くらいの迫力がある。特殊効果が楽しめる映画館でみたらきっとすごいんだろうなあ、と思わせた。

ただ、本作は観客を怖がらせることを目的とした恐ろしげなパニック映画では全く無くて、ケイトやタイラーの明るくあっけらかんとしたキャラや、各種ギミック(代表的なのはドリルを地面に打ち込んで固定を図るタイラーの愛車。あんなんで竜巻に対抗できるはずないけど、なんか面白い。ラストシーン近くでの違う目的での使用法もいい)が充実していて、エンタメとして非常に楽しめる作りになっている。さすがスピルバーグのプロデュース。
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「世界の終わり」の地政学

2025年01月03日 | 本の感想
「世界の終わり」の地政学(ピーター・ゼイハン 集英社)

水運を使った物資輸送力は、他の手段と比較して圧倒的に効率的(例として、シベリア鉄道の年間輸送総量は超大型コンテナ船一隻分に及ばないそうである)であり、大洋の航海術が確立されるまで、文明は大河やそこから派生する河川網による水運が可能な平野で栄えてきた。大航海時代を経て海運を制した国が覇権を握るようになり、WWⅡ後は圧倒的なアメリカの海軍力に守られて全世界物流が効率化しグローバル経済が大繁栄した。
著者は、WWⅡ後の状況は歴史上特殊なものであったとして、アメリカが世界の警察官役を降りた今、グローバル経済は大幅に縮小し「世界の終わり」がやってくると主張する。

上記の主張にはにわかに首肯できかねるが、なぜ水運が重要なのか?という解説は論理的かつ単純で面白かった。

その他、次のような解説がよかった。なお、上下巻に分かれているが、上巻が総論、下巻が各論という構成になっていて、有り体にいうと上巻だけ読めばいいかな・・と思えた。

都市化によりなぜ出生率が落ちるのか?→農村では子供は無償の労働力だが、都市では単なるコストにすぎないため

日本は高齢化を逆手にとってデソーシングを進めた。工業生産能力の多くを他国へ移転し、現地の労働力を使って生産し、収益を日本に還元して高齢化する日本の人口を養うという構造である。これを進められた背景にはアメリカによる安全保障があり、それが揺らいだ今後はどうなるだろうか?

遠く離れた海域で艦隊行動ができるのはアメリカ海軍くらい。格差は圧倒的だがそれに次ぐのは海上自衛隊で海上護衛が可能な実力がある。(本書では何回も海上自衛隊の実力を高く評価しているが、買いかぶり過ぎのような気がしないでもない)

多くの移民をアメリカに供給してきたメキシコも少子高齢化が進んでおり、2014年以降大量の移民が発生しているのは(メキシコ以外の)中米諸国である。その一方で今最も強硬な移民排斥派は第2世代以降のメキシコ系アメリカ人である。

中国経済の規模はいまだアメリカのそれよりかなり小さい。それなのにここ10年間の中国の貨幣供給量はアメリカを上回っており、二倍に及んだこともある。中国経済は、消費主導でも輸出主導でもなく貨幣主導型といわざるを得ない。

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