蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

夜明けのすべて(小説)

2024年11月11日 | 本の感想
夜明けのすべて(小説)

映画を見た後に読んだ。映画は原作にかなり忠実に作られていた。違うのは主人公たちが勤務する会社の業種くらいだった。

映画もよかったけど、原作は一段と素晴らしかった。
映画だと、主人公ふたりの間に多少の恋情があるという雰囲気にしないと持たないと思えたけど、原作ではその点きっぱり二人の間の恋は否定されていたのもなんだか清々しい??
パニック障害の深刻さも小説の方が切実に感じさせられた。精神的に不安定な人がなるものだと思い込んでいたのだけど、むしろ元気いっぱい忙しく生活を送っている人がなりがちなんだとか。

終盤での、山添の以下の独白が特に良かった。
***
働かないと生きていけないし、仕事がなければ毎日することもない。だから会社に勤めている。けれども、仕事のもたらすものはそれだけではない。自分のできることをほんの少しでも、何かの役に立ててみたい。自分の中にある考えを、何らかの形で表に出してみたい。そういう思いを、仕事は満たしてくれる。働くことで、漠然と目の前にある大量の時間に、少しは意味を持たせられる気がする。
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ファーストラヴ

2024年11月11日 | 本の感想
ファーストラヴ(島本理生 文春文庫)

女子大生の聖山環菜は父親殺しの容疑で捕らえられ裁判を控えていた。臨床心理士の真壁由紀は、その事件を描いたノンフィクションの執筆を依頼されて環菜と面会するが、環菜の供述は面会のたびに異なり・・・という話。

著者の作品を読むのは初めて。
会話にリアリティが感じられなくて、登場人物がそれぞれの役を演じている人のようで現実感がなく、事件の真相も、そりゃちょっと無理があるでしょ、って感じだった。

本作のテーマは、ひたすら犯行動機にあって、そこには確かに著者の主張が強く打ち出されている。
だからミステリとかサスペンスを期待して読み始めたのがいけなかったのかな?
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団地のふたり

2024年11月04日 | 本の感想
団地のふたり(藤野千夜 双葉文庫)

桜井奈津子と太田野枝は同級生で幼なじみ。古ぼけた団地に住み、野枝は奈津子の部屋にいりびたる。
奈津子はかつては人気イラストレータだったが、今は注文もまばらで、オークションサイトで近所の人から不用品売却を請け負って生計を?たてている。
野枝は大学の先生になりそこねて非常勤講師をしている。
二人は独身50代。将来の展望も夢も特にないが、日常はゆったりと流れていく・・・という話。

TVドラマ化されて好評のようだし、私が好きな貧乏くさい話っぽいので、読んでみた。

で、まさにど真ん中の貧乏話なのだが、しみったれた感じはまったくないし、二人とも経済的貧しさを自覚しながらも気にしていない。

奈津子は広場恐怖症?みたいな症状があって、遠方への外出は難しい。野枝は文系の天才だったのだが、大学での権力闘争?に敗れて、今では奈津子の部屋でダラダラ過ごすのが板についてしまった。
でも、二人ともそんな来歴や今の暮らしぶりを愚痴ることはない。

多くの日本人は老後の生活資金を心配して消費を抑えてひたすら貯蓄し、結局は資産のほとんどを持ったまま死んでしまう。これが経済がイマイチ盛り上がらない大きな原因といわれる。
この二人のような考え方をして、あまり将来を悲観しないようにすれば、日本の景気も多少はよくなるような気がした。
でも、本作のような、とてもジミーな本がドラマ化されて大人気ということは、この二人のような暮らしや考え方がしたいけど、リアルにはそうできない、という人が多いという証左なのかもしれない。
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ミッキーマウスの憂鬱

2024年11月04日 | 本の感想
ミッキーマウスの憂鬱(松岡圭祐 新潮文庫)

21歳の後藤大輔は、ディズニーランドのバイトに採用されて、キャラクターの衣装(かぶりもの)の装着補助や管理を行う部署に配属される。配属に不満を持ちつつも働き始めるが、ミッキーマウスの衣装が紛失するという大事件が発生し・・・という話。

ディズニーランドに関する描写がすべて実名ベースなので、同社公認・監修?のヨイショもの?なのかと思いきや、むしろ正反対で、実話なのかどうかわからないが、内部告発めいた暴露モノのような内容だった。

ディズニーランドというと、マニュアルで従業員をがんじがらめにしているようなイメージを持っていたのだが、本書によると(本当とは思えないが)バイト教育は皆無でまるっきり放置プレイ、皆バラバラに動いている、てな感じだったし、本社スタッフの露骨なエリート意識とか内部抗争は「夢の国」には全くふさわしくないものだった。そういえばタイトルもそういった内容に沿ったもののような気がしてきた。

いや、やっぱり単なる作り話かな・・・
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台北プライベートアイ

2024年11月02日 | 本の感想
台北プライベートアイ(紀蔚然 文藝春秋)

劇作家で大学教授の呉誠は、よくある中年の危機?に陥り教職をやめて下町で私立探偵を開業する。といっても知識も経験もないのだが、最初の仕事(浮気調査)はそつなくこなす。呉の近所で連続殺人事件が起き、呉は容疑者となってしまうが・・という話。

個人的な好みとしては(というか、よくある設定としても)私立探偵本人はハードボイルドな暮らしをして偏愛的な趣味(古い雑誌を収集するとか)を持っていてもらいたい。
多くの場合、ミステリとしての犯人さがしより、そうしたヘンテコで変人な探偵を描く場面の方が面白く読めることが多いような気がする。

本作の場合、主人公の呉は、ものすごく尊大で酒に酔うと周囲の人を手ひどく批判する。特段の趣味はない(散歩くらいか?)ようだし、変人というよりは、イヤな奴という感じだし、浮気調査の依頼人と浮気してしまうというのはどうよ。

筋立てとして、前半の浮気調査のてんまつが、後半の殺人事件に当然絡んでくるんだろうと思ったが、関連性は全くなく、犯人を探るための伏線もほぼ皆無。

うーん、従来の私立探偵ものとは一線を画す斬新な作品を作ろうとしているのだろうか?
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