落合順平 作品集

現代小説の部屋。

舞うが如く 第一章 (14)房吉騒動・その2

2012-11-22 11:43:43 | 現代小説
舞うが如く 第一章
(14)房吉騒動・その2



 こと、ここにいたってもはや猶予は無しとみて
房吉も、小刀を抜いて応戦をいたします。
玄関先では手狭なために、庭先に飛び出てその態勢を構えます。



 が、卑怯にも数人の者が
庭先の土蔵の上から、かねてより用意しておいた
大小の石のつぶてを、房吉めがけて投げつけてまいります
これを避けて傍らの生け垣に身を寄せると、その隙間から
えいやっとばかりに竹槍が、気合とともに突き出されてきました。
ひらりと身をかわせば、また次の隙間からも、
次の竹槍が突き出される始末です。




 事の重大性を察知した房吉が、
与吉と寿吉の二人に向かって、「早くこの場を立ち去れ」と命令します。
高弟の二人は、師とともにこの運命を共にすると
言い張りますが、房吉が其れを遮ります。



「我らが三人とも死なば、
伊乃吉らの企み通り、わが法神流が途絶えるのは必然である。
二人とも早く落ちのびよ」と重ねて厳命をくだします。




 斬りかかってきた数人のものを、
左右になぎ払って退路を切り開いた房吉が、早く逃げろと
二人に向かってさらに声を荒らげます。
後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた二人は、街道にでると
右と左にそれぞれ別れ、互いの道場にむかって
加勢をもとめてひた走ります。




 「やい、山崎。
試合を望むものが、この有り様はあまりにも卑怯千番。
武芸者ならば、いざ尋常に勝負いたせよ!」




 と声をかける房吉に、当の山崎孫七郎は、
大太刀を構えたままで微動だに動きません。
あからじめ房吉が小刀の名人とも聞き及んでいるだけに、
その包囲網を少し狭めただけで、その先へは、
誰一人として踏み込んでいけないのです



 そのころになると、
屋根のつぶても尽きたと見えて、
今度は手当たり次第に、瓦を剥がして投げつけてきました。
足もとには砕けた瓦が、がれきの様に降り積もります



 房吉は左右に身をよけて、瓦をかわしながらも、
間合いを詰めかねている取り巻きたちに、鋭い剣先を見舞い続けます。
石と瓦の効果もなく、手傷を負う配下の者が増えるの見ながら
もはや最後の手段と、伊乃吉が背後へと目配せをしました。



 突然鳴りだす太鼓の音とともに、
勝手口の格子窓から、狙いを定めた鉄砲が放たれました。
そのうちの一発が房吉の太股を撃ち貫きます。




・本館の「新田さらだ館」こちらです http://saradakann.xsrv.jp/