医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

高血圧の薬は何が一番良いか

2005年10月22日 | 循環器
一概に高血圧の薬といっても以下のようにいろいろな種類があります。

カルシウムチャンネル・ブロッカー(Ca拮抗薬)
利尿剤
アルファー・ブロッカー(α遮断薬)
ベータ・ブロッカー(β遮断薬)
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害剤)
アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

これらの中で何を使うかは医者の裁量となっていますので、各製薬メーカーは凌ぎをけずって大規模臨床試験を試みて、各薬剤の有用性を証明しようとしています。そんな中で最近発表されたCAMELOT(キャメロット)と名付けられた大規模臨床試験を取り上げます。

7月11日の記事でお伝えしたように、アメリカではβ遮断薬の有用性が確立され高血圧患者に処方される6割ほどがβ遮断薬です。日本では人種の違いからアメリカ人よりも心臓の血管の収縮の頻度が高く、その収縮を予防するCa拮抗薬が処方の6割を占めています。逆にアメリカではCa拮抗薬の処方率は2~3割です。従って、アメリカでCa拮抗薬を発売する製薬メーカーはβ遮断薬に負けまいとCa拮抗薬の有用性を証明したかったのです。

Journal of American Medical Association. 2004;292:2217.からの報告です。(インパクトファクター★★★★☆、研究対象人数★★★★★)

この試験では高血圧の患者さん以外でも有効である事を証明する目的もあって、対象となったのは平均血圧129mmHgの正常血圧の方でした。合計1,991名が商品名ノルバスクというCa拮抗薬を一日5mg内服する群(663名)と、商品名レニベースというACE阻害剤を一日10mg内服する群(673名)と、それらを内服しない群(それまでα遮断薬やβ遮断薬や利尿剤を内服していた場合はそれらを継続する)(655名)に分けられ、2年間前向き(研究を始めると決定してからその後のデータを調べる)に調査されました。調査された内容は、心臓血管疾患による死亡、非致死性心筋梗塞の発症、心停止、心臓の血管の風船治療などが必要になったか、狭心症による入院、心不全による入院、致死性と非致死性の脳卒中、一過性脳虚血性発作、新規末梢血管疾患です。

結果は、2年間でこれらの疾患の発症がノルバスク群16.6%、レニベース群20.2%、非内服群23.1%でした。レニベース群は非内服群と比較して統計学的に差はなかったのに対して、ノルバスク群は非内服群と比較して有意に発症が抑えられていました。ただし論文をよく読むと、おもてだって伝えられない問題点を読み取る事ができます。それは、この結果はいくつかの疾患の発症率の総合的評価であり、個別にみてノルバスク群が非内服群と比較して有意に発症が抑えられているのは「心臓の血管の風船治療などが必要になったか」と「狭心症による入院」だけです。非致死性としても重篤な疾患である心筋梗塞の発症や脳梗塞、心臓血管疾患による死亡、心停止に関して有用性は認められませんでした。

「心臓の血管の風船治療などが必要になったか」はノルバスク群11.8%、非内服群15.7%で、「狭心症による入院」はノルバスク群7.7%、非内服群12%です。ノルバスクは5mgが93円ですから、一人の風船治療を抑制するのに174万円かかります。しかし風船治療はそれ以下の費用で可能ですから、該当する患者さんにとっては風船治療が必要なくなるメリットがありますが、医療費はノルバスク投与で上がってしまいます。同様に「狭心症による入院」の場合は154万円で、ノルバスクを投与されるより実際に狭心症で入院する方が医療費的には安くなります。この問題を解決するためにはこの薬代をもっと安くする必要があります。

ノルバスクの薬代が5mgで40円ぐらいであれば問題はないので、是非とも製薬会社には企業努力をお願いしたいところです。

SONYの年間営業利益(売上高から売上原価、販売費用、管理費用などを差し引いたもの)が1,572億円(2005年3月)で、これだけの利益を出すのに7兆1,600億円を売り上げなければならない(利益率=営業利益/売上高=2%)のに対して某製薬会社の利益率はなんと39%(4,421億円/1兆1,200億円)です。会社四季報を見ますと、こんな利益率を持つ会社は上場企業の中では製薬会社と最近話題のインターネット関連企業のほかに決してありません。あのトヨタでさえ9%です。


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