医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

アスピリンは女性の脳梗塞の発症率を下げる

2005年10月25日 | 循環器
前回、薬価が安いことは良いことだとお伝えしました。しかし、薬価が安くて効果があっても、これではどうかという問題を取り上げます。New England Journal of Medicine. 2005;352:1293.からの報告です。(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)インパクトファクター、研究対象人数ともに申し分ありません。

皆さんもアスピリンという名前を一度は聞いたことがあると思います。100mgで6.4円と安い薬です。アスピリンには血液が固まるのを抑制する働きがあって、最終的に局所で血液が固まって発症する心筋梗塞や脳梗塞を予防することができるかもしれないという事で、これまでもさまざまな研究がなされてきました。

この研究では女性でアスピリン100mgを内服する群19,934人と内服しない群19,942人が10年間前向きに調査され比較されました。どうして女性だけなのかというと男性と女性では効果が違うことが分かっているからです。

結果は、10年後に脳梗塞を発症したのが内服群170人(0.8%)、内服しない群221人(1.1%)で統計学上有意(P = 0.009)に内服群の発症率が減少していました(相対危険度0.81)。

相対危険度とはこの場合、それを発症する危険が81%に減少したという意味ですが、相対危険度だけではその疾患の発症率がわからないので、あまい良い指標にはなりません。例えば、100人のうち2人が発症する疾患を1人に減らすことが出来たのは相対危険率0.5ですが、100人のうち20人が発症する疾患を10人に減らすことが出来るのも相対危険率0.5であり、相対危険率が同じであってもその意義が全く違うからです。

心筋梗塞に関しては内服群198人(0.9%)、内服しない群193人(0.9%)で差は認められませんでした。しかし年齢を65歳以上と限ってみると、心筋梗塞の発症は内服群41人、内服しない群62人で内服群の発症率が減少していました。

この調査とは別に、男性の場合は女性の場合とは逆に、アスピリンの内服は心筋梗塞の発症を減少させるが脳梗塞の発症を減少させない事が明らかになっています。
「アスピリン100mg、女性は脳梗塞、男性は心筋梗塞を予防」です。

さて、ここで例のごとく1人の脳梗塞を予防するのにいくらかかるかを計算しましょう。6.4円の薬を10年間内服すると発症が1.1%から0.8%に減るのですから、6.4 x 365 x 10 x 1000/3=778万円です。6.4円の薬でも効果が表れるまでには意外と費用がかかるという事です。

この調査では約4万人が調べられています。それには訳があって、調査する人数を増やすほど、ごく僅かの差でも統計学上の有意差が出やすいからです。「1人の発症を予防するのにはいくらかかるか」という指標は、これら「調査する人数の問題」や「薬価の問題」などを全て含めて比較する事ができるので、私はとても有用な指標であると考えています。

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