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ワース 命の値段

2023年03月10日 | 映画

アメリカ同時多発テロ事件の犠牲者と遺族に補償金を分配する国家事業を取り仕切った弁護士、ケイン・ファインバーグの奮闘を描いた実話に基づく社会派ドラマです。

ワース 命の値段 (Worth)

実話に基づく社会派映画が好きなので楽しみにしていました。ファインバーグを演じるのが「スポットライト」「ファウンダー」での演技が記憶に新しいマイケル・キートンということもあって注目していましたが、期待通りに見応えがあって、おもしろかったです。

冒頭、ワシントンD.C.のジョージタウン大学でのファインバーグの授業に、思わず引き込まれました。「君はカンザスの農場で夫をトラクターの事故で亡くした妻、君はトラクター会社、君は保険会社、妻が訴えた場合、もらえる金額がいくらになる?」といった具合。

まるでサンデル先生の白熱授業のようですが、ファインバーグは「これは哲学の授業ではない。命の値段の話なのだ」と結びます。

米政府は、9.11 直後に被災者と遺族を救うための国家基金を立ち上げます。といっても、実はこれは莫大な補償金を要求されるであろう航空会社を助けるために、先手を打って遺族に補償金を支払って納得させ、訴訟を阻止する目論見がありました。

遺族を説得する特別管理人に抜擢されたのがファインバーグです。目標は80%以上の遺族を納得させること。ファインバーグは得意の数式を駆使して、論理的なモデルを作れば、遺族たちは納得するはずだと確信しますが、最初の説明会から大荒れになります。

生前の所得や家族構成、諸条件に数字をあてはめ、もっともらしい補償金を算出し、押し付けるやり方は、とても遺族の感情に受け入れられるものではありませんでした。

遺族たちが望んでいるのは、遺族のことばに耳を傾け、故人を取り巻く状況に応じた補償を提案すること。婚外子のいる家庭、同性のパートナーがいる男性、さまざまなケースに配慮して、故人や遺族の希望に寄り添うこと。

私は... といえば、どちらの立場もよくわかります。すべての人に公平に補償を行おうとすれば、ある程度ファインバーグの考える数式モデルに頼らざるを得ません。一方で、人間は感情の生き物だというのは紛れもない真実です。

大切な家族を亡くし、悲しみや喪失の中にいる遺族たちにとって、故人との関係はとても金銭で測れないもの。遺族たちの感情や状況を十分に配慮し、寄り添うことで、遺族たちは納得し、受け入れることができるのだと思います。

当たり前といえば当たり前ですが、人と接する時の基本を教えられたような気がしました。そして、優秀なだけでなく、感情の豊かさをあわせもつスタッフに支えられているファインバーグは幸せだと思いました。

ファインバーグに負けない論理派ながら、遺族のひとりとしてまとめ役を買って出るウルフにスタンリー・トゥッチ。トゥッチといえば、これまでどちらかというとオネエ系のコミカルな役が強く印象に残っていたので、今回のシリアスな演技に感銘を受けました。

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