都内の桜もほとんど散ってしまいましたが、今しばらく桜の話題におつき合いくださいませ。先週、山種美術館で開催中の「桜 さくら SAKURA 2018 美術館でお花見!」展(~5月6日まで)のギャラリートークに参加してきました。
近代日本画のコレクションで知られる山種美術館が、桜を描いた作品を厳選して公開する展覧会で、今回6年ぶりの開催とのことです。山種美術館は好きな作品が多く、こじんまりとした雰囲気の中、作品が身近に感じられるところが気に入っています。今回もいくつかの作品と再会するのを楽しみにしていました。
主な作品に解説がついていますが、美術館を開設した山崎種二氏が画家との交流の中で収集された作品なので、美術書とはひと味違い、体温が伝わってくるように感じられます。今回は学芸員の方のお話をうかがいながら、より興味深く作品を鑑賞することができました。
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上のフライヤーにある作品は、土田麦僊(つちだばくせん)の「大原女」(1915)。京都・大原ののどかな春の情景が屏風に描かれ、小鳥のさえずりが聞こえてくるような気がしました。大原女さんの足を線でさっと描いて動きを表現しているのは、セザンヌなどの近代西洋画の影響なのだそうです。
展覧会のスタートを飾るのは、東山魁夷の「春静」(1968)。京都・鷹ヶ峰の風景を描いた作品ですが、整然と立ち並ぶ杉の木?の中、満開の桜がひときわ美しく目を引きました。
小林古径が、安珍・清姫の道成寺伝説を8枚の絵巻物に仕立てた『清姫』の中の1枚「入相桜」(1930)です。安珍・清姫を埋葬した場所に植えられたという入相桜は、2人の魂を優しくなぐさめているように見えました。
奥村土牛の代表作「醍醐」(1972)。師である古径の7回忌の法要の帰りに立ち寄った、京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜に極美を見出し、10年後に完成させたという作品です。
同じく土牛の「吉野」(1977)。連なる山々を花霞が覆い、夢のような風景です。
石田武「千鳥ヶ淵」(2005)。石田武はイラストレーターから日本画家に転向し、山種美術館賞を受賞して注目された画家だそうです。他に「月宵」「吉野」が展示されていましたが、どれもデザイン性があってすてきでした。本作は、さざ波の立つ薄緑色の水面と枝を伸ばした桜の花々、遠近の表現に引き込まれました。
第二展示室は夜桜のコーナーでした。こちらは千住博の「夜桜」(2000)。ほのかな月明りの下、桜の花々が空から降り注ぎ、幽玄な美しさが怖いほどでした。左下に金で描かれた細い月がちらりと見えます。
ゆっくり桜のアートを鑑賞したあとは、1階の”Cafe椿”でひと休み。企画展にちなんだ和菓子を楽しみました。5種類ある中、こちらは菱田春草の「桜下美人図」をモチーフに”うたげ”と名づけられたお菓子です。