ブラジル・サンパウロを舞台に、初めての恋心にとまどう高校生の姿をみずみずしく描いた青春映画。ブラジルの新星ダニエル・ヒベイロ監督の長編デビュー作です。
彼の見つめる先に (Hoje Eu Quero Voltar Sozinho / The Way He Looks)
目の見えない高校生のレオは、少し過保護だけど愛情深い両親や、近くに住む優しい祖母、いつもそばにいて学校生活を支えてくれる幼なじみのジョバンナらに囲まれ、平穏な毎日を送っていました。ある日、彼のクラスにガブリエルという転校生がやってきます。レオとジョバンナは、温和な彼とすぐに打ち解け仲良くなりますが...。
ブラジル映画やブラジルを舞台にした映画は、これまでにもいくつか見ていますが、ほとんどがスラムを舞台にした過酷な世界を描いた作品だったので、こういうごくふつうの家庭や学校生活を描いた作品というのが、なんだかとても新鮮に感じられました。
甘酸っぱくて切なくて、どきどきして、胸がきゅ~っとしめつけられる作品。主役の3人をはじめ、映画に登場するすべての高校生たちが、むちゃくちゃかわいくて愛おしかったです。ストーリーはまったく違いますが、テイストとしては「シングストリート」に似ているような... 私はこういう作品につくづく弱いです。
まず、レオとジョバンナの関係がとてもすてきなのです。幼なじみのジョバンナは、レオにとっては母や姉のような存在。ジョアンナはいじめっこからレオを守り、いっしょに登下校し、彼の目となって支えます。レオがジョバンナの膝に頭をのせて眠っている情景は平和そのもの。2人は完璧な信頼関係で結ばれているんだなーと感じさせるシーンでした。
ジョバンナはレオの不便を知り尽くしているので、何事も先回りして彼のために動きます。まるで”レオには私がついていなくちゃ!”というように。2人は仲良しで、”キスしてみる?”と挑発することもありますが、安心感で結ばれていて、恋のときめきとは程遠いようです。
そんな2人に自然と加わったガブリエル。彼もジョバンナのように優しく穏やかな少年ですが、いろいろな意味でジョバンナとは違います。彼は”レオは目が見えない”ということに慣れていないので、うっかり映画や月食を見に行こうと誘ったり、自転車に乗せたりしますが、それらはどれもレオにとって、初めての胸躍る体験でした。
これまで愛情という庇護のもとで守られていたレオにとって、ガブリエルは新しい世界へと誘ってくれる存在。そんなわくわくした時間をいっしょにすごしていく中で、いつしかレオの中にガブリエルに対する特別な思いが目覚めていくのでした...。
これはボーイ・ミーツ・ガールならぬ、ボーイ・ミーツ・ボーイの物語。これまで同性愛をテーマにした作品はいくつも見ていますが、これほど自然と彼らの気持ちに寄り添うことができたのは初めてです。レオは目が不自由な分、性別にとらわれない自由な思いを抱けたのではないか、と思いました。
そしてガブリエルも最初からレオを、”目が見えない”という特別な目で見ることがなかった。Bell and Sebastian が歌う優しいメロディが、この繊細な物語にぴったり合って、ほんわかと温かい気持ちになりました。
Bell & Sebastian "There's Too Much Love" from "The Way He Looks" (You Tube)