トランスジェンダーの女性が差別や偏見と向き合いながら、自分らしく生きていく姿を描いたチリのヒューマンドラマ。2018年アカデミー賞外国語映画賞受賞作です。
ナチュラルウーマン (Una Mujer Fantastica / A Fantastic Woman)
昼はウェイトレス、夜はナイトクラブで歌手として舞台に立つトランスジェンダーのマリーナには、年の離れたオルランドというパートナーがいました。しかし、マリーナの誕生日をお祝いした夜、オルランドは自宅のベッドで突然発作を起こし、マリーナが病院に運び込むも亡くなってしまいます。
最愛の人を失った悲しみに暮れる間もなく、オルランドの死因に疑問がもたれ、警察やオルランドの家族から容赦ない仕打ちを受け、深く傷つくマリーナでしたが...。
オルランドはテキスタイルの会社を経営している穏やかで優しい紳士。妻と離婚し、マリーナと幸せに暮らしていました。オルランドは、マリーナが歌うクラブにステージを見に行き、仕事が終わってから、いっしょにバースデーのお祝いをします。今度いっしょにイグアスの滝を見に行こうと約束して...。
マリーナとオルランドは、年は離れていますが互いを思いやり、愛し合っているごくふつうの恋人同士。しかしオルランドが亡くなったことで、これまで表に出てこなかったさまざまな問題が一気に噴き出します。
たとえば、2人は法的な夫婦ではないから、2人が住んでいたアパートも、2人が飼っていた犬も、マリーナには一切の権利がありません。別れた妻はマリーナの存在を否定し、葬儀への出席も認めようとしません。さらに警察は、興味本位でマリーナに屈辱的な取り調べを行います。マリーナは言います。”私は一人の人間である”と。
マリーナにとって、自分が女性であることも男性を好きになることもごく自然なこと。そのことに、社会の仕組みや周りの理解が追い付いていないという現実をまざまざと突きつけられたと感じました。マリーナを演じるダニエラ・ベガ自身がトランスジェンダーであり、映画は性的マイノリティの視点から描かれているので、なおのこと説得力がありました。
逆境に立ち向かう姿を向かい風で表現する場面も印象的でしたが、私が特に心に残ったのは、マリーナがオルランドと火葬場で最後のお別れをする場面。ファンタジーのようですが、スピリチュアルで美しく、忘れがたいシーンでした。
それから音楽の使い方もうまいなーと思いました。マリーナがソプラノボイスで歌う「オンブラ・マイ・フ」は、もとは男性が歌ったアリアなのですよね。序盤のクラブのシーンで、マリーナが”冷めた愛は、昨日の新聞”と歌うサンバ?もおもしろかった。それから懐かしかったのが、The Alan Parsons Project の「Time」。美しいメロディに泣けました。