@「律儀な男」、恩をなんとか返したいばかりに犯罪に染まった哀れな人物。本文末の短編小説だ。人生で自分がドン底に居る状態で他人に助けてもらう事は、あるだろうか。二進も三進もいかない路頭に迷った末に、親切な人が助けてくれることは滅多にあることでは無い。ましてや現代は個人主義、自己主張の強い世の中に人助けをするのは摩訶不思議と映るかもしれない。江戸時代だらからこその「人情」「情け」があったのかもしれず、現代では忘れ去られようとしている。人は弱い、だから間違った道を選ぶ、だが、一言(小さな親切・行動)で一生後悔する道を行かせない、助かることもある。その一言も言えない世の中は一体誰が作っていったのだろうか。(貧すれば鈍する・言うは易し行うは難し)
『ほら吹き茂平』宇江左真理
- 深川の茂平は大工の棟梁を引いて隠居の身。生来の仕事好きには、ひまでひまで仕方ない。そんな茂平、いつの頃からか「ほら吹き茂平」と呼ばれるようになっていた。別に人を騙そうとは思っていない。世間話のついでに、ちょっとお愛想のつもりで言った話がしばしば近所の女房たちを、ときには世話好き女房のお春までをも驚かす。その日は、一向に嫁がない娘を連れて相談にきた母親に、いつもの悪戯ごころが頭をもたげてきて…。(「ほら吹き茂平」より)。やっかいな癖、おかしな癖、はた迷惑な癖…いろんな癖をもった人がいるけれどうれしいときには一緒に笑い、悲しいときには一緒に涙する。江戸の人情を鮮やかに描いた時代傑作。
- 「ホラ吹き茂平」
- 隠居の身になった丹治。ちょっとした小屋を建てるのに人手不足で婿の嫁を自分の仕事を片腕として雇う。ホラが現実、近所にも変な噂が。
- 「千住庵つれづれ」
- 浮風は先祖と話ができる能力を持った尼層。「死は恐れることでは無い。いずれ生まれ変わって、この世を再び生きることができるのだから。肉体は滅びても魂は不滅である」と説く。いつか亡くなった夫と話ができることを望んでいた。
- 「金棒引き」
- 金棒引きとは世間の噂を誰よりも早く得ることで、皆に重宝された。そんな中で家茂に嫁いだ和宮の噂。足が悪く、手先がなく、身代わりだったと言う噂は、家茂死後どれも当てはまらなかった。
- 「せっかち丹治」
- 丹治の娘の結婚話が出るが本人は乗り気がしない。それは大店の両親の終日介護をお世話をすることが主の目的で嫁を探していた。娘が断ると周りから非難の声が出たが、他の娘が嫁いだが、10日もしないで逃げたと言う話を聞いて安堵する。
- 「嬬恋村から」
- 浅間山噴火で亡くなった妻と娘の供養に千住庵を訪れた元夫。なんとか供養してほしいと昔の経緯を話した後、酒に酔い眠り込んだ。やがてその亡霊(妻、娘、さらに再婚し亡くなった妻)が浮風に話しかけてきた。なぜ噴火から逃げ切れなかったのか、それは夫を家の中で待っていたとの事。また二人のなき骨壷をこの千住庵の真っ赤に燃えて紅葉の下に葬ることも快く受けたと聞く。また再婚した妻が一緒に来たのは骨壷の行方を知りたくついてきたことなど納得して3人の亡霊は亡くなり、元夫も夢の中でそれを知っていた。
- 「律儀な男」
- 大店の娘と結婚したも元手代、今はその娘をもらい主人となっていた。が嫁とその母親があまりにも我儘で店も御構い無しで芝居小屋に通い、そこの役者に惚れ込んでいた。 ある時主人は買い付けに家を長く開けた時、途中で物乞いにあい人助けをする。それが後々恩返しとしてやった行動が、娘、母親、それに役者を殺し、自分も死んだ妻の元に行くことだった。それはせめてもの償い、恩返しとしてできることだ死に際の妻に言われたことだった。実は殺しの行動はその主人に為ではなく自分のためだったと白状。 今まで人に優しくされ妻のその恩になんとか答えてほしいと遺言を残していたことだった。 「ありがとう」を主人に言い別れを告げた。