@短気を起こし自分を窮地に追いやる、とはこの武家の「情」小説だ。 妻になる妹の兄・友を守る為、後先構わず自分を犠牲に必死に藩に対抗し、蟄居させられる。その結果、自分の人生を台無しに、またその妹も他家に嫁いだが夫の浮気、盲目障害を持つ子供に対する非情な仕打ちを受け、最後には離婚となる。だが、五年後「恋心」を復活させる事ができるのである。思い続ける事で実現させた、それは執念で、最後まで目的を達成するまで持ち続けた結果だと。(短気は損気)
『五年の梅」乙川優三郎
- 友を助けるため、主君へ諫言をした近習の村上助之丞。蟄居を命ぜられ、ただ時の過ぎる日々を生きていたが、ある日、友の妹で妻にとも思っていた弥生が、頼れる者もない不幸な境遇にあると耳にし──「五年の梅」。表題作の他、病の夫を抱えた小間物屋の内儀、結婚を二度もしくじった末に小禄の下士に嫁いだ女など、人生に追われる市井の人々の転機を鮮やかに描く。生きる力が湧く全五篇。
- 「後瀬の花」
- 切羽詰まった二人が駆け落ちする。男の方は盗賊として御用が追い詰める。最後に行き場を失った二人は心中する。ところが自分が死んだのかわからないまま二人の会話はお互いを罵り合いながらも続き「やり直しをしようとする」
- 「行き道」
- 昔の幼馴染と偶然会う。昔の思いをついに男が告白、女も今の夫の生活苦には我慢がならず、二人が再び会うことになる。駆け落ちを心に描いた女にその日ある自殺願望の娘と会い、元の夫へと思いとどませる。それは娘に「辛いことなんていくらでもあるわ。でも一つ一つ乗り越えてゆくしかないの。人間なんてみんなそうやって生きてゆくのよ」とお節介すると同時に、自分も「やり直し」を決意する。
- 「小田原鰹」
- 妻は絶え間のない夫の横暴で夫婦喧嘩する。25年間一緒に住んだが夫から離れ住む。だが、どうしても夫を一人にしておく事が出来ず、その償いに初鰹を毎年長屋に届け続けた。
- 「蟹」
- 2度目の離婚を強いられた武家の娘が貧疎な武士の嫁になる。食べるものがないが唯一海で取れる蟹で心を癒され、貧疎な武家だが正直で心「情」を大事にする夫で、それが娘の心も豊かにした。
- 「5年の梅」
- 武家友を庇う為、藩内の不平不満を口にし、蟄居させられた。 その結果、その友の妹と結婚を反古にしたが、4年の間蟄居後城勤めとなる。妹はある金貸し武家に嫁入りし、一人の女の子を授かったが、夫はその子の盲目を医者にも見せず、外に妾も作り金貸しを繰り返していた。結婚できなかった償いとして女の子の目を何とか医者に診てもらう為、一人一生懸命土地を開拓し金を手にして何とか女の子の治療を実現させた。蟄居した時の梅の木に花が咲き、何とか生き直そうとしていた。