@500ページ近い本書の内容は歴史的背景も含め世界の「教育」に関する盛り沢山の情報書だ。また、後半では近未来の教育の姿、予測など「第3のシナリオ」など実に興味深いものがある。その中で興味を持ったのはデジタル化・電子化による急変する教育環境だ。特にネット社会が生み出す「学校」が様変わりする予測(仮想現実の在宅教育)、それも思考能力、創造力等を育む反転反復授業など年齢問わず受講し、伝達(生徒であり教師なる)できる仕組みなど教育の世界は変貌するのは間違いない。現実「プロゲーマー」は既に職業として位置を確立しており、そこに博士号などの学位が必要だろうか。現在この競技人口は世界に1億3千万人いるとされ賞金トップで最高7億円を稼いでいる人もいる。現在e-Sport業界では最高20億円も稼いでいるという。
『教育の超・人類史』ジャック・アタリ
「概要」人類は知識をどう受け渡してきたのか…歴史を見直し、AIと共に生きる未来のシナリオを考える。「知の巨人」による予言の書!
ーこの書は教育の歴史から未来を予測するという内容だが諸外国の歴史的背景がさまざまなで一部割愛、特に諸外国での教育の発達と経済を1900年代から2022年まで追った内容に注視してみた。
ーアメリカ 富裕層以外は大量生産方式
・1935年高校生の修了者は40%、1941年には徴兵で5百万人もの若者が不採用となった
・1942年教育に変化が起きたのは国防関連の研究に力を入れ大学は贅沢な予算がついた
・1954年連邦裁判所の人種分離政策の違憲、1957年ソ連の宇宙開発で米国教育予算は大増
・1965年高等教育の新設大、75年には身障者への補償
授業料は公立大学で12000ドル 私立大学ではその8倍となる
・2022年小中学生徒数は5660万人、内公立5080万人、富裕層の私学が580万人
ホームスクール生徒は3%、1960万人が5500の高等教育を受けている
94%は高校生卒、39%が学士号、9%修士号
課題は薬物事件などの惨事も多く、学費の高騰(33200ドル)と学生ローンの減免措置
ーイギリス 教育格差は解消せず
・1918年教育法により14歳まで全日制、18歳までは定時制の中等教育が義務となる
・1948年義務教育が15歳へ、中等教育は無償化、中等教育を一本化した試験導入
・1988年教育法改正により多文化主義が制度化される
・1990年オックスフォード、ケンブリッジなどの半数は私立の教育機関経由のイギリス人
・2022年認識率は99.9%学位取得者の割合は44%(3分の1の学校は宗教系)
パブリックスクール(上流階級)には約6%の生徒学費も進学率も高い
3~4年の高等教育で学士号、大学の学費は有料(9250ポンド)
学生数は25万にオックスフォードでも女学生が増えオープン大学も増加
課題は高騰化した授業料、学力の低下傾向、教育格差はOECDでも最低、基礎学力不足
ーフランス 脱宗教に抜けた果てしない闘い
・1902~3年ブルジョワ階級との差別化・教育投資の沈滞(教育費1%)、女子の教育開始
宗教者は教壇に立つことを禁止、修道会の閉鎖、2万人がフランスを離れた
・1924年政令により男女共初等中等教育始まる(共学ではなく)
・1930年中等教育に19万7千人の生徒、5学年まで無償化、大学進学率は2%
・1936年義務教育を14歳まで引き上げ、ENA(国立行政学院)設立
・1944年CNEC(国立通信教育センター)開設
・1947年義務教育を18歳まで段階的に引き上げ
・1960-69年男女共学、技術教育課程を新設、3分割教育(語学・自然環境・身体育成)
・1994年小学生に外国語授業の導入、非認識者は1%、
・2022年1300万人の生徒(公共教育以外17%)、中等教育終了86%
国立遠隔教育センターでの生徒は20万人を超える
フランスへの留学生は25万8千人(アメリカ百万人、イギリス43万人)
課題は親の社会的地位の格差が子供の教育格差に最も影響を及ぼす国とされた
ードイツ 復興期に起きた悲劇
・1919年小学校4年生まで無料教育、幼稚園児対象の「自由学校」設立
・1949年宗教行事など参加をの強制停止(授業は午前中のみ、午後はスポーツ職業訓練)
・1959年理工科学校8年生から職業訓練を重視
・2014年教育カルキュラムに「就職ガイダンス」が義務化された
ースイス 世界最高峰の大学もある多言語型教育制度
・1854年技術と科学者養成スイス連邦工科大学設立(科学・技術・工学・数学)
・2016年世界大学ランキンでは14位
中学校で70%がバイリンガル教育(英語65%・ドイツ語28%・フランス語17%)
ーフィンランド 協働に基づく世界一の教育制度
・2021年6歳から16歳まで義務教育で無償化(生徒数は1クラス最大20名)
13歳まで成績を付けない(14歳から4~10までの成績がつけられる)
留年はほとんどなくついていけない生徒は支援を受けられ、食堂は小中高無償
教員は高等教育の学位及び専門の修士号の取得、極めて厳しい採用試験に合格必須
教師は医者や弁護士と並び社会的尊敬対象職業
ーエストニア 出自が学校成績に及ぼす影響が最も小さい国
・1990年ソ連から脱退後教育費GDP比で6.8%とOECD内で最も高い
生後18ヶ月から自治体に預けられ技術、運動、言語、算数を学ぶ
3歳児で94%、4歳児で97%が幼児教育期間に通う
義務教育は7歳から17歳まで学校の選択肢あり地域の要望にあったカルキュラムがある
ーEU 加盟国の調和を促す試み
LMD(学士号・修士号・博士号)の共有制度の導入で11各国が参加
ーシンガポール 最も競争の激しい世界トップクラスの教育制度
・1965年独立宣言後の教育改革(科学教育)
世界の数学重視の教育法で優秀な人材を集めた
・2021年生徒の98%は学習塾、読解、化学、数学においては世界1位
ー韓国 輝かしい結果と多くの惨事を伴う過酷な競争
・2021年義務教育は6歳から9年間、中等教育の修了者は97%、学習塾で夜11時まで勉強
睡眠時間は6時間未満(3時間ならソウル・延世・高麗、5時間以上は大学を諦める)
10歳から19歳の死因第一位は自殺、家庭の教育負担が多い
ー世界の教育現状
・私立学校の経営は莫大な利潤を手軽に得ている(利益追求型私立学校の増大)
・宗教色の強い学校の変化(カトリックなど減、だがプロテスタント、イスラムは増)
・アメリカではホームスクーリング(在宅教育)の生徒が3%と増加傾向
・教育現場での暴力は減っていない(米国は体罰は合法であり家庭内でも同じ)
・デジタル化への波(衛星放送、インターネットでの盛況・ジャンルは様々)
民間団体カーンアカデミーには711万人の受講生
コーセラには135万人の受講生(90%は無料オンライン)
TED-ED130各国へ提供、85万人が受講
Googleクラスルームでは教師の授業を生徒が受信 1億5千万人が利用
(対面式の方が子供の注意力と成績が良い)
ー今日の教育(学校制度:垂直式と水平式)
垂直式:アジアや南ヨーロッパで実践・教師の講義を生徒が拝聴する教師主導型
水平式:北欧での実践・グループ、プロジェクトワークなど生徒による積極的な質問形式
・知識伝達方法:4つの思考
反転授業:生徒は新たな学習内容を自宅で学び、学校では演習に費やす
クロスオーバー授業:授業で学んだ知識を日常生活と結びつける
議論型授業:教師が生徒の好奇心や批判的精神を刺激する質問を投げかける
生産的失敗法:教師は難度の高い問題をだし、生徒に考えさせ解決法を解説する
ーエリート重視の教育・無償化と資金援助
・授業料無償オーストラリア・スコットランド・フィンランド・スエーデン・ノルウエー・ギリシャ
・生活費も支給する国:デンマーク
・資金援助:韓国10万ドル、シンガポール84500ドル
・民間の教育サービスでエリート育成は富裕層と権力者のため
ーこれからの教育
・学校外の知識の伝達力が弱体化(家庭での費用と時間が減る)
・学校制度の見直し(民主主義の衰退による権力者たちのプロパガンダ押し付け)
テクノロジー進歩による変化・サイバー空間教育(生成AI/ロボットによる教育環境)
・学校外からの知識の向上(学校の衰退・閉鎖・終焉・教師に対す敬意を失う)
自身で思考する基礎知識欠如で疑問を探究する能力等が失われる
遺伝子操作による伝達形式が増加
ー第3のシナリオ
・子供に価値観、知識、文化、創造力、やってはいけないことを伝達する
・エリート層・権力者が持つ特権を解消すること
・学習者を罰するよりも満足感を高めること
・機械的な反復練習よりも自律的な創造性を重視すること
・教えることは最高の学習だと理解すること
・森羅万象の根幹を教えること
・自己自身と生きとし生けるものに対する敬意、思いやり、共感力を持ち、自尊心、誠意、やる気、好奇心、勇気、独創性、批判的精神、自由と努力に対する熱意、観察力、価値基準、利他主義、チームワークの精神、想像力を育むこと
ー未来学者「2030年に存在するだろう職業の85%は2022年には存在なく、2023年に存在する職業の半分は2030年には消滅する」
ー未来の職業(複数うの職業を持つ能力)
・都市農業
・建築モデリング管理者
・人工臓器の開発製造医療者
・シェルター建設
・サバイバーリズムの関する職業
・人の脳の働きを遠隔から分析流専門家
・クローンや遺伝子改変の技術を利用した絶滅した動物を復活させる専門家
・AIが人間を裏切らないようにするための専門家
・メタバースにおける新技術の指導者
・生物模倣技術の研究者と開発者
・宇宙旅行の添乗員
ー未来の教育法
・洗練され訓練を受けた教師から電子メールで指導を受ける
・仮想現実を利用する体験学習への推進(柔軟な発想や独創性を伸ばすボードゲーム)
・生徒がクラスメイトのために授業を行う(反復授業)
・あらゆる年齢の人々が学習者となり同時に教師になる
・個々にあったハイブリッド教育の推進(学習方法・カルキュラムの選択など)
ー著者の提言
・自分の興味あることが見つかるまでひたすら読書する
・計画を立てて学習意欲を養う
・自分らしさを探究し、生かす術を模索する
・常に疑問を抱き、分からないことを解決するまで学び続ける
・仲間と共に学び、実践を通じて理解し、教える事も実行する
「政治的遺書」リシュリュー枢機卿の言葉
「すべての臣民が学問に勤しめば、国家はとんでも無いことになる。多くの臣民は傲慢になり、従順なものはほとんどいなくなる。臣民が学問するようになれば、国富の源泉である商売や、国民の胃袋を満たす農業はおろそかになる。また、兵士を育てるのは、学問ではなく粗野な無知であり、臣民が学問に勤めしば勇敢な兵士がいなくなる。学問を首位進すれば、国が豊かになるというよりも、家庭だ崩壊し、世間を差が和す面倒な人物が増えるだろう」
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