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山と溪を旅して

丹沢の溪でヤマメと遊び、風と戯れて心を解き放つ。林間の溪で料理を造り、お酒に酔いしれてまったり眠る。それが至福の時間。

世附のゆかいな仲間たち

2008-10-07 23:04:29 | フライフィッシング
西丹沢の世附の山には得体の知れぬ生き物たちが跳梁跋扈している。
以前からそんな噂を耳にしていた。

その正体を見た者は酒をしこたま呑まされて闇夜に放置される、
そんなことがまことしやかに囁かれてもいた。

もしや、既に絶滅したと伝えられる世附先住民族『』ではないだろうか?
彼らはマムシとスズメバチとヤマメを常食とし、釣りや山菜採りに日がな一日遊び、
樹液で造った酒を好み、事あるごとに寄り集まっては酒を酌み交わし
狂ったように豊年満作踊りを踊るのだという。

僕は、いつかその正体を暴いてやろうと機会をうかがっていた。
一体どんな姿をしているのか、どんな言葉を話すのか興味は尽きなかった。
そして遂にその時がやってきたのである。

午前4時、彼らはどこからともなく集まり
暗い林道を2時間も歩いては方々の沢に散ってヤマメを釣るのだという。

僕は彼らが集まると言う浅瀬に、陽も高く登った午前7時半に着いた。
暗い林道歩きの最中、得体の知れぬ彼らに危害を加えられる危険を避けたかったからである。

そして8時半、パイプ堰堤を越えて悪沢(わるさわ)に入った。



素晴らしい溪相である。
僕のメインフィ-ルド『神の川』を少し穏やかにした感じだろうか。



時々ヤマメがピチャっとフライに反応を示す。
すかさずウリャっと合わせを入れるが乗る気配がない。
なぜなんだろう、ヤマメに聞いてみた。



ついさっきメタボなテンカラ師が二人この沢を釣り上がったという。
酒をあおりつつテンカラ竿を振り、釣れないと言ってはバシャバシャと
流れに入ってヤマメを蹴散らし、おやじ臭をまき散らして行ったと言う。

すわっ、世附先住民族『』か?
その姿をこの目に焼き付けようと急いで後を追った。
しかしその逃げ足は思いのほか早かった。



僕は釣りもの探索も諦めて力なく沢を下った。



今朝越えたパイプ堰堤をくぐって本流に降り立った。







なんと、信じられない光景が目に飛び込んできたのだ。

白装束の大男が、捕獲した大きなスズメバチの巣を処理している。
その周囲では大きなスズメバチが猛り狂ったようにブンブン飛び交っていた。

恐ろしい光景であった。
しかしその前では腰の鈴を鳴らしながら蜂の巣の大漁を祝うかのように
豊年満作踊りを踊るポンポコリンがいるではないか?

蜂の巣?豊年満作踊り?
これはまさしく世附先住民族『』の一団に違いない。
僕は一抹の不安を感じながらも吸い寄せられるように一団の輪の中に入って行った。



僕は生け贄の代わりに持っていた馬の生肉を差し出して命乞いをした。
彼らは生肉を一口ほおばり『旨いっ!』と人間の言葉を発したのだ。
しかも日本語ではないか。にわかには信じられなかったがこれは真実である。



なんと彼らは洋服を着ている、ナイフも箸も使いこなしていた。
いつしか僕は古くからの友であるかのように彼らの輪の中にとけ込んで酒を酌み交わしていた。



これは狸のステ-キだろうか?旨かった。



これはハリガネムシかはたまたヤマビルか?旨かった。



彼らの常食、旨かった。



彼らは信じ難いほどの進化を遂げていた。
鍋やガススト-ブといった文明の利器も使いこなしていたのだ。

どうやら彼らは危険な民族ではなさそうである。
穏やかに愉快にゆったりと、流れる時間と人生を謳歌する幸せな民族であることが分かった。

ついでに糖質ゼロのビ-ルが気休めであることも分かった。



歓迎のしるしに作っていただいた松茸ご飯、まさに絶品であった。



僕は深い眠りに落ちていた。
その間も彼らは呑み愉快に語り続けていたようである。



目覚めると、何を釣るでもなくひとり糸を垂れる男が居た。
穏やかに流れる時間の中に身を置いて生きる。
世附先住民族の幸せな生き方に触れた思いがする。



この実に味わい深い愉快な仲間たちとまた再会したいと思う。
それまで彼らの民族が生き延びて欲しいと願っている。

毒キノコにあたって死ぬな。
マムシに咬まれて死ぬな。
呑み過ぎてメタボで死ぬな。
スズメバチに刺されて死ぬな。
後から来た釣り人に追い越されたからと言って血圧上がって死ぬな。

そう願いつつ暮れなずむ林道を仲良く語りながら下っていった。
闇夜に放置されなくて良かった。

の皆さん、ありがとさんでした。


コメント (14)
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