秦夕美句集『さよならさんかく』より15句抄
7 冥府ともちがふくらさや山櫻
26 ながらへど何故に聞こえぬ虹の音
31 嫁が君わが心臓をひとめぐり
34 あかんばう容れてしづまるげんげかな
43 似顔絵に足す青筋や雁渡る
47 転生のみたびはつらし玉霰
49 指の血は玉となりゆく利休の忌
50 追伸の一行にくし花の山
55 いさゝかの水煮てゐたり鷗外忌
63 ころあひといふふたしかさ月の鶴
66 奪衣婆も夢をみるなり雪卍
貝寄風や死体いさゝか疲れゐる
68 とりはづす五体の螺子や草おぼろ
74 赤紙は追放令か菊月夜
雁や陸は海よりさみしくて
ちなみに
巻頭句は
雪崩つゝ朝は来るなり海馬にも
掉尾句は
天涯や影灯籠の芯に座し
*秦 夕美(はた ゆみ)*
昭和13年3月生まれ
日本女子大学国文科卒
豈同人、個人誌『GA』発行
既に14冊の句集を上梓されているから、
この句集は第15句集となるのか
あとがきによれば
「もう句集は出さないときめていた」そうで、
あとは「『GA』の書下ろしだけが残っていけばいい」と。
「それがふと、仮名ばかりの題名の句集をもっていないことに
気づいた」ということらしい。
亀の甲より年の功とでもいおうか、
この句集は、肩の力がいい塩梅に抜けて
理と知と情のバランスがよい。
それゆえの余裕と貫禄がたっぷり。
(うこんの花)
82歳になったら、
自分は生きているかどうかわからないが
どんな俳句を詠んでいるのだろう
少したのしみになってきた。
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