フランス語読解教室 II

 多様なフランス語の文章を通して、フランス語を読む楽しさを味わってみて下さい。

Ph. Sollers <<L'ange de Proust>>(3)

2014年06月11日 | 外国語学習

[注釈]
 * Je me serais bru^le' les ongles : 『失われた時を求めて』の主人公に仕えるフランソワーズは、フランスの地方特有の言葉遣いで時として主人公を魅了するのですが、その彼女の言動にはこのセレストの姿がいくらか反映されていると言われています。se bru^ler les ongles という一般に使われている慣用句があるのかどうかは定かではありませんが、これももしかしたら、セレストの、あるいはセレストの育った地方特有の言い回しなのかもしれません。

[試訳]
 この二人よく笑っています。例えば、 NRFが『失われた時を求めて』の出版を断ったことをジッドが謝罪に来たとき、セレストは「あの方はまるでえせ坊主のようだ」と思ったと言います。するとプルーストは吹き出して「大笑い」。そのあだ名はそのあともジッドに残されることになるのです。セレストは彼女独自の人の見方を持っていたようです。コクトーは「イタリアの道化ポリシネル」で、ただ(あるいはほとんど)ジャック・リビエールとエドワー・モランだけが、彼女のメガネに適ったのでした。セレストが一番驚いたのは、この大病人の書くことの速さでした(彼女は逆さまからでも主人の書いたものを読むことが出来ました)。ベッドは原稿で埋め尽くされ、それを穫り入れ、貼付け、分類しなければなりませんでした。ある朝、プルーストは彼女に言います。「完」の字を書いたよ、と。「これでぼくも死ねる」「可哀想な旦那様の疲れ切った身体に病がさらに深刻になってからは、片目を閉ざすことももうありませんでした。後から言われたものです。一週間私はまったく横にならなかったそうです。そんなことはわからなかった、と私は答えました。本当に、自分では気づきもしませんでした。私にとっては、まったく当たり前のことでした。旦那様が苦しんでいる。考えることはただひとつ。旦那様の望むこと、その苦しみを少しでも和らげることができることなら、なんでもして差し上げることです。(...)十分なことをして差し上げられないぐらいなら、私は自分の爪を燃やしていました。」
 プルースト氏はもう眠ることも、食事をとることもありませんでした。医者の手も拒んでいました。自らの死は自分だけのものである、と考えていました。「旦那様の生殺与奪の権をお持ちなのは、旦那様をおいて他にはありませんでした。」セレストのづき言葉が私は好きです。「旦那様は自分自身であることにかけて最高にエレガントでした。ただそれだけです。」
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 いかがだったでしょうか。misayo さん、midoriさん、Mozeさん、梅雨の日々にも関わらず、訳文ありがとうございました。
 実は、プルーストの最期を看取ったそのセレストの姿を以下で見ることが出来ます。決して知識階級に属する人物ではありませんでしたが、きれいなフランス語で聡明に語るマダムの様子を見ることが出来ます。
http://www.ina.fr/video/I08042556
 さて次回からは、あのクンデラがカフカの『審判』を評した文章を読むことにします。詳しくはこの週末までにお知らせします。
 p.s. Moi, non plus, je ne peux fermer les oreilles au cri des chats. Shuhei