『大乗仏教の深層心理学』新装重版

2011年05月19日 | 広報

 長い間品切れになっていた拙著『大乗仏教の深層心理学』が新装重版で再刊されることになりました。今月23日配本予定です。

 新装重版に際して次のようなあとがきを書きました。

                 *

 新装版によせて

 東日本大震災から一ヶ月という状況の中、お知らせがあり、新装版として刊行していただけることになった。品切れで読者に不便をおかけしていたので、とても喜んでいる。

 初版は一九九九年だから、振り返れば暦が一巡りしたことになる。

 この間大きく変わったことの一つは、筆者も呼びかけ人の一人となり多数の賛同者を得て、二〇〇九年十二月、「日本仏教心理学会」が設立されたことである。刊行当時、アカデミックな世界では仏教と心理学の「対話」や「比較研究」はありえても「統合」はありえないという空気が漂っていたが、いまや相当数の両分野の専門家がその方向に向いつつある。それは、現代人の心の癒し・救い・成長・変容は仏教・東洋だけでも心理学・西洋だけでも実現できない、両者の英知の統合にこそ可能性があるという気づきがアカデミズムにも広がりつつあることの現われと捉えてまちがいないだろう。

 もう一つそれと重なり、近代的な自我意識とそれに基づく社会システムの限界が明確になったことである。とりわけ地震―津波の激甚被害、中でも原発事故は、「人間は近代的な理性・科学・技術によって自然を人間の都合に沿うようコントロールし無限の経済的成長を遂げていくことができる」という思い込みの不可能性を、悲惨なかたちで目に見えるものにした。日本人は大自然への畏怖と畏敬の念をみごとなまでに忘れ切っていたのではないか。

 近代的自我と社会システムは不可分な相互関係にあり、両者が共に超えられることなしには、現代社会の諸問題が根本的に解決されることはないと、長年、筆者は主張してきた。
 本書も「仏教書」というより、近代的意識を超えてその先に進むための決定的に重要なヒントとして、大乗仏教の深層心理学ともいうべき唯識――その代表的古典である『摂大乗論』を読み解くことを試みた、いわば「思想の書」であり、そういう意味で、この状況の中で再刊される意味は大きいと自分では思っているが、もちろん評価は読者に委ねたい。

  二〇一一年四月
                                 著 者

                 *


 お待ちいただいていた読者のみなさん、ほんとうにお待たせしました。どうぞお買い求めください。下の画面から予約もできます。



大乗仏教の深層心理学 『摂大乗論』を読む
クリエーター情報なし
青土社



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