大井玄『看取りとつながり』紹介

2017年03月30日 | 仏教・宗教

 人生の大先輩であり、看取りの医療に携わってこられた東京大学名誉教授の大井玄先生の新著を送っていただき、目次などを見るととても興味深い内容だったので、すぐに読み始め、先ほど読了しました。

 目次は以下のとおり。

 第一章 看取りの医師として

 第二章 科学と仏教

 第三章 神との合一

 第四章 日本の仏教は生きている人の力になりうるのか

 第五章 仏教とつながり

 第六章 精進の果てに

 大井先生は、本ブログでお伝えしてきた唯識やコスモロジーに非常に共感してくださっていて、その点については「全面的合意」という感じなのですが、臨床医として長年現場で生老病死に立ち会ってこられた深い体験知・臨床の知は、筆者のまったく及ぶところではなく、いつもいろいろご教示、ご指導、ご協力をいただいてきました。

 「認知症高齢者に寄り添う医師が観察する、科学と宗教の出会い」という長い副題が主な内容を表現していますが、それだけではない豊かな内容があります。

 帯の表には「あらゆる存在は他者と相互に関係し合い、つながり合っている。つながりが実感できれば、不安はなくなり幸福になる」とあり、
 帯の裏には「看取り医として、わたしが仏教に親和性を感じるのは、科学者の端くれとして見ている宇宙像と、人間像と、意識、無意識、そういうものを仏教はすべて包摂しているからです。(中略)仏教は安心を与えてくれる『心の科学』なのです。」という著者の言葉が引用されています。

 語り下ろしということもあって、とても読みやすい文章で綴られていますが、社会医学・公衆衛生学の研究者であり、元国立環境研究所長であり、しかし臨床の現場を離れることなく、看取りの医師として、病、老い、死に向き合い、そこから得てこられた先生の、専門知識はもちろん、諸分野にまたがる驚くほど幅広く深い教養と、体験に裏づけられた人生の英知が、いわば総集編的にみごとに統合―凝縮された、きわめて豊かな内容の本です。

 特に、ご自作の「銀河系宇宙となりて坐りおり」という句に表現された、三十年以上にわたる坐禅体験によって到っておられる無分別智と慈悲の境地は、ほんものだと感じさせられざるをえません。

 先生のほうが一回り年長なので、順序どおりだと無理そうですがもし可能ならば、私も最期はこういう先生に看取っていただきたいものだと思います。

 ともかく本書は、このブログをご愛読くださっている読者ならば、必読です! と強くお勧めしたいと思います。 

 ただ、とても読みやすいやさしい文章であるため、下手をすると内容もやさしいものと誤解して読み飛ばす危険があるということも、読者に予め警告しておきたいと思います。

 

看取りとつながり
大井玄
サンガ


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