さて、こういう問題を考えるときに、大きくいってアプローチの仕方に2種類あります。
問題解決のアプローチとしては、ふつうほとんど例外なくまさに「問題解決法」と呼ばれる方法が採られます。これは、まず現状認識から始まります。それから原因分析を行ないます。それから対策策定が行なわれて、実行がなされるわけです。
専門的には「フォアキャスト」と呼ばれる手法です。
ところが、問題は、すでに言ったとおり、この間で段階を追うごとに割引がなされるということです。
問題解決法というのはそもそも起こっていることを問題・マイナスと見ていますから、できるだけその問題でマイナスの努力をしたくないという心理が必ず働くわけです。例えば「環境汚染をなんとかするための財政負担をどうしよう」といった発想になるわけです。負担・マイナスととらえると、なるべくそれを減らしたくなります。
「問題解決法」というアプローチですると、心理的にあるいは実際財政的にも割引、割引ということになり、実行段階になると必ずといっていいくらいかなり割り引かれた実行しかできないのです。
ところが、従来、公式の機関がやってきたのは全部この手法でした。
ですから、ほんとうにやりたいのであれば、私に言わせると、そういう手法だけでは足りないのです。
それに対して、より有効だと思うのは、「願望実現法」というアプローチです。
先ほどの第1のシナリオを実現しようとする場合、どうすればいいかというと、我々はどこに行きたいのか、どこに行かなくてはいけないのか、というヴィジョンをはっきり目標として設定するということです。
つまり、高度産業社会、高度浪費社会はこのまま続けることはできないとしたら、そうでないエコロジカルに持続可能な社会に行かなくてはいけないのだ、行きたいのだ、それが人類の行かざるを得ない目標である、ということをはっきりと割引なしにヴィジョン設定をするということです。
スウェーデンなどが採用しているのはこうした手法で、「バックキャスト」と呼ばれます。
スウェーデンのように政府がバックキャスト手法でやっている国はいいのですが、我が国のようにフォアキャストでやってきた国では、まず気づいた市民が、以下のような「願望実現法」という方法で、国家単位でのバックキャストを目指して目標を設定することから始めるほかないでしょう。
目標を設定したら、それが実際に具体化したらどういうことになるのかをイメージ化してみます。
そして、それにもし参加するのであれば、もうそれは実現すべきものだから、実現するんだというふうに信じるしかないのです。
これまで挙げてきた予測からすると、確率的にいえば人類の未来は相当に当厳しい、と私は読んでいます。にもかかわらず、その先に行きたいんだという願望が自分の中にあるのであれば、もう「行くのだ、行けるのだ」とまず自分の中で信念を確立するしかないのです。
そうすると、何が起こってくるかというと、私たちの心の中に「行く」というエネルギーが湧いてくるのです。「そこに行くんだ、行かなくっちゃ、行きたい」というエネルギーが国民的な規模で獲得できるかどうかというのが、実は一番大きな問題だと私は考えています。
みんなが「なんとなく大変なのはわかっているけど、それに関わるのはめんどくさいし、大変だし、疲れるし、暗くなるし……」と言っていたのでは、起こる確率の高いことが実際に起こってしまうでしょう。
先ほどの問題解決法だと必ず「犠牲を払う」という話になるのですが、それに対して、願望実現法という手法を使って、これから先人類が向かうべき行き着く先を希望のある世界としてヴィジョンをきちんと描き出せたら、そこに行きたくなり、そこでする努力は「自分の夢のための先行投資だ」という発想に変わるのです。
私たちがこういうことに関わるときに、自分たちの未来のため、夢のために先行投資をするんだという発想を確立することです。
しかし、今きわめて高度に発達した産業社会ですから、これを今日や明日に変えるわけにはいきません。エコロジカルに持続可能な社会と高度産業社会の間には、そうとう大きな距離があります。
この距離だけを考えると絶望しそうになるのですが、そこで私たちは近代以降の理性の時代に生きている人間ですから理性を使わなくてはいけません。
どんなに遠くてもステップを踏んでプロセスを踏んで歩んでいけば、目的地に到達するということです。プロセスをはっきりと意識的に設計するということです。どこに行きたいのかがはっきりしたら、そこに到達するためのプロセスを設計するのです。
このプロセスの設計というのは、ヴィジョンさえ確立してしまえば、日本には細かいプロセスが設計できる非常に優秀な能力をもった学者や官僚はたくさんいますから、少なくとも国民、国民の代表としての政府がこちらに向いて行くのだと決めて、学者と官僚に発注すれば、プロセス設計は間違いなくやってくれるでしょう。そうしたら、それこそ官民挙げてそれを実行・実現すればいいわけです。
すでにかなりのプランが、学者の中からも通産省や環境省の官僚の中からも出てきていますし、少し前から「バックキャスト」手法で行かなければならないということさえ語られるようになっていますが*、残念ながら肝心の目標が、エネルギー消費の限界をはっきり押さえた真に「エコロジカルに持続可能な社会」ではなく、経済成長とそのためのエネルギー消費の拡大を前提にした「循環型社会」という構想ですから、それでは本当の問題解決にはならない、と私は考えています。
しかし幸いなことに、すでに国家単位で「エコロジカルに持続可能な社会」を目標に掲げ、バックキャストの手法で着実に実現しつつあるスウェーデンのような国もあります。私たちは、具体的なモデルがないところで、ゼロから考える必要はないのです。
私たちは、スウェーデンなどの「福祉先進国」でありかつ「環境先進国」である国々に学びつつ、まず日本の未来のヴィジョンを描くことができるでしょう。
そして、ヴィジョンができたら、それを実現するための手法は「バックキャスト」そして「願望実現法」です。
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●どんなに遠くてもステップを踏んでプロセスを踏んで歩んでいけば、目的地に到達する。プロセスをはっきりと意識的に設計するということです。
こうした言葉に大いに同感しましたが、ビジネスの世界では、しっかりしたビジョンと説得力のあるプロセス設計(骨組み)の両方が揃わないと、投資の決断は出来ません。この常識からすれば、事前にヴィジョンと説得力のあるプロセス設計(骨組み)がセットされていなければ、運動に参加の決断が出来ません。
プロセス設計は学者と官僚に発注すればやってくれるという姿勢では、理屈では納得しても政治的運動に参加することに躊躇する人を積極的に参加させることは難しいのではないかと思いますがいかがでしょうか?
もちろんプロセス設計の骨組みに基づいた細部の肉付けは、政党活動の発展に即応して、学者や官僚に発注すればよいと思いますが・・・。