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内部の敵への怒り…三島の心の奥底にある日本と日本人に対する誇りと、戦後日本に深く根ざした偽善に対する拒否感。

2023年07月18日 18時37分39秒 | 全般

三島由紀夫の遺言 決起から50年

(中)戦後の偽善に拒否感
2020/11/24 産経新聞の特集記事からである。

男には…あえて命を捨てる覚悟も必要なんです

作家、三島由紀夫は東京・市谷の陸上自衛隊施設に立てこもり自決する1週間前の昭和45年11月18日、図書新聞の企画『戦後派作家は語る』で、評論家の古林尚と対談し「命の惜しくない人間がこの世にいるとは僕は思いませんね。だけど、男にはそこをふりきって、あえて命を捨てる覚悟も必要なんです」と決意を口にしている。

さらに、「今の時点であなたにはっきりと言っておきますよ。ぼくのやろうとしていることは、人には笑はれるかもしれないけれども、正義の運動であって、現代に正義を開顕(かいけん)するんだという目的を持っているんです」と続けていた。

転機は「英霊の聲」
 
「早熟の天才」と呼ばれる三島は16歳のときに短編小説『花ざかりの森』(昭和16年)で文壇デビューした。
24歳で『仮面の告白』、31歳で『金閣寺』を書き上げ、国内外で高い評価を受けた。
その後は週刊誌でのエッセー連載や映画俳優など文壇以外でも活躍していた。

そんな三島が政治的色合いの濃い評論や随筆を書き始めたのは41年の「文藝」6月号に『英霊の聲(こえ)』を発表したころからだ。
二・二六事件の決起将校と特攻隊員の霊が盲目の少年の口を借りて「などてすめろぎは人間(ひと)となりたまいし」を繰り返し、二・二六事件での天皇の対応と、終戦後の人間宣言に疑問を投げかけた。

のちに三島は『英霊の聲』について、文芸評論家の秋山駿との対談で〈危険な言質を吐いたら、責任をとらなければならないでしょう。なにか自分にも責任がとれるような気がしたのです。だからあんなこと書いたのです。そういう見極めがつかなければあんなもの書けないですね〉と告白している。

『三島由紀夫 かく語りき』の著者で、元楯(たて)の會(かい)1期生の篠原裕は「『英霊の聲』を書いた時点で死んで責任を取る覚悟はできていた。(思想家としての言動が)『英霊の聲』から具体的になっていった」と三島の心の動きを読む。

さらに、41年12月、民族派学生による総合雑誌「論争ジャーナル」の萬代潔らとの出会いも、三島にとって衝撃的だったようだ。
同誌で『青年について』(42年10月)と題してこう回想している。

〈一年足らず前、私に革命的な変化を起こさせる事件があった。私の中に、はじめて妙な虫が動いてきた。私は萬代氏の話におどろく以上に、そんな自分におどろいた。ひたすら本当の青年の出現を待つてゐたのかもしれない。覚悟のない私に覚悟を固めさせ、勇気のない私に勇気を与へるものがあれば、それは多分、私に対する青年の側からの教育の力であらう〉

三島は42年4月から5月にかけ、単身、自衛隊に体験入隊したが、その後は学生を募って一緒に訓練を受けている。
その学生たちが43年10月5日に発足する楯の會の1期生だった。
若者たちとの交流の中で、作家ではない別の顔が確立されていったのかもしれない。

内部の敵への怒り
 
三島の心の奥底にある日本と日本人に対する誇りと、戦後日本に深く根ざした偽善に対する拒否感。
三島の葛藤は日増しに膨らんでいく。
そして、葛藤から「行動」へと決断させたのは国文学者、蓮田善明の存在があった。

蓮田は終戦時、敗戦の責任を天皇に帰した連隊長を射殺し、自身も短銃自殺した。
蓮田は主宰する同人誌に『花ざかりの森』を載せるほど、三島を評価していた。
その蓮田の実践的死生観が三島に強い影響を与えたといわれる。

三島は『蓮田善明とその死』(小高根二郎著)の序文に、こう記した。

〈蓮田氏が何に対してあんなに怒つてゐたかがわかつてきた。日本の知識人に対する怒りだつた。『内部の敵』に対する怒りだつた。徐々に蓮田氏の怒りは私のものになつた。そして氏の享年(41歳)に近づくにつれ、氏の死が、その死の形が何を意味したか、突然啓示のやうに私の久しい迷蒙(めいもう)を照らし出したのである〉
(敬称略)

 

 


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