今日は新聞休刊日なので、昨日のコラムを紹介します。
・ 夕方のバス停でのこと。中学生らしき制服姿の女の子たちの会話が耳に入ってきた。「きのうさー、先生にさあ、ボロクソほめられちゃったんだ」。えっと驚いて振り向くと、楽しげな笑顔があった。若者が使う表現は何とも面白い
▼「前髪の治安が悪い」「気分はアゲアゲ」。もっと奇妙な言い方も闊歩(かっぽ)する昨今だ。多…
・ 東京国立近代美術館が所蔵する「エロシェンコ氏の像」は、大正期の肖像画の傑作として知られる。1920年、洋画家・中村彝(つね)の作品。モデルは日本に滞在し「盲目の詩人」として知られたウクライナ系の作家、ワシリー・エロシェンコ(1890~1952年)だ
▲帝政時代のロシアに生まれ、幼少時に失明した。エスペラント語を学び、日本に関心を抱き来日し、童話などの創作や講演活動に携わった。中村が結核をおして描いた作品は帝展に出品され、パリでも評判になったという(「エロシェンコの都市物語」藤井省三著)
▲そのエロシェンコの名が最近、注目を集めた。ウクライナのキーウ市議会は、旧ソ連のスパイ、リヒャルト・ゾルゲの名を冠した「ゾルゲ通り」を「エロシェンコ通り」に改めることを決めた
▲日本で戦前に活動し、処刑されたゾルゲは今もロシアの英雄で、プーチン露大統領が敬愛しているとの説もある。ロシアの侵攻が続く中、旧ソ連・ロシア風の名称を見直す一環としての改称である
▲日本に縁の深い人物が選ばれたわけだが、エロシェンコの日本滞在は不幸な結末を迎えている。21年、思想や交友関係から内務当局に目をつけられ、国外に追放された。当局は当時、ロシア革命後の社会風潮に神経をとがらせていた
▲日本での活動の証しでもある肖像画は9月10日まで、近代美術館の所蔵品展で展示されている。講演では楽器を演奏するなど多くの人を魅了したという、その人物像にふれることができる。
・ 「民主主義は効率が悪い」。そう主張し、独裁と核武装を掲げ誕生した政治結社がまず日本国内で支持を得て、やがて世界を混乱に陥れる。村上龍さんが1980年代半ばに発表した小説「愛と幻想のファシズム」のあらすじだ。舞台は数年後の近未来に設定していた。
▼情報技術を武器とする展開に新味があった。企業のコンピューターに侵入し中身を書き換えたり、架空の映像を自在に創作したり。政治家や経営者の談話をでっち上げケ...
・ 「手帳は高橋」の高橋書店は毎年、「メモしたくなる名言」を公募している。誰かの何げないつぶやきなのだが、ホームページを時々のぞいては、微苦笑を誘われ、ほろりとさせられ、心の凝りをほぐされている
▼15年ほど前の秀作を引く。<「努力」はたし算。「協力」はかけ算>。一人一人の努力は積み重なって大きな力を生む。でも協力は、誰かがそっぽを向けばゼロになる。中学2年(当時)の女の子が、部活動の先生にそう教えられたという。忘れ得ぬ計算式だろう
▼ゼロになる掛け算には、別のパターンもあるらしい。よそからの協力の申し出には耳を貸さず、手柄を自分一人のものにする。世の中には、よい子はまねをしてはいけません―を地でいく困った見本もある。不祥事を生んだのは、「五輪は電通」のおごりだという
・ 映画『ラヂオの時間』などの脚本家、三谷幸喜さんにはアイデアに行き詰まったときに使う奥の手があるらしい
▼シャワーを浴びるそうだ。一日に五、六回とは多い。アルキメデスが入浴中に金の純度の測定法につながるアイデアを思いつき「エウレカ(見つけたぞ)!」と叫んだ逸話を思い出す
▼バスルームが隠し場所だったとは、見つけた際は捜査員も「エウレカ!」と叫んだか。トランプ前米大統領が大量の機密文書を持ち出し、スパイ防止法違反などの罪で起訴された事件である。フロリダ州の邸宅のバスルームなどに機密文書を隠していたという
▼公開されたバスルームの写真に驚く。機密書類が入ったと思われる紙箱が無造作に山積みされている。機密には核兵器に関する軍事情報も含まれている。人の出入りも多かった邸宅と聞く。ここから機密が流出するようなことがあれば、米国のみならず世界を危険にさらしかねなかっただろう
▼この三月に別件で起訴され、訴追は二度目となる。出馬を表明している次期大統領選には致命傷だろうと思いきや、そうでもないらしい
▼一連の起訴はトランプ支持者にはいわれなき迫害に映るようで、むしろ結束を強める可能性もある。共和党内の候補選びでも、トランプ氏の優位は今のところ動きそうもない。起訴という冷たいシャワー。それでもトランプ信奉者の目は覚めない。
※ いつ読んでも面白い。感心します。
社説よりも好きかも???