北方領土の日に関して、2社が社説に取り上げました。
2018年2月8日 毎日新聞の社説です。
戦後73年の「北方領土の日」 厳しさがつのる交渉環境
きのうは「北方領土の日」だった。1855年に択捉島の北を日露間の国境と定めた日露和親条約の締結日にあたる。
東京都内で開かれた返還要求全国大会で、安倍晋三首相はプーチン露大統領と20回の会談を重ねてきた実績を踏まえ、領土交渉を「一歩一歩着実に前へ進める」と約束した。
戦後73年となり、元島民の3分の2はすでに他界し、残る約6000人の平均年齢は83歳になった。一刻も早く解決しなければならない。
2016年12月に山口県で行われた日露首脳会談は、領土交渉をいったん棚上げし、北方領土での共同経済活動などを通じて信頼関係を高め、平和条約締結につなげていく「新しいアプローチ」に合意した。交渉方針の大転換だった。
それでも日本には、解決に意欲を見せるプーチン氏が今年3月の大統領選で再選されれば、打開へ動き出すのではという期待があった。
ところが情勢は大きく変わった。
昨年1月、対露改善を唱えて就任したトランプ米大統領だったが、この1年で米露関係はむしろ悪化した。さらに2日公表された米国の「核態勢見直し(NPR)」は、ロシアへの対抗措置を強く打ち出した。
この中で米政権は、ロシアが局地戦で小型核兵器を使用する可能性に対抗するため、小型核弾頭や核巡航ミサイルの開発による核戦力強化へかじを切ると宣言した。ロシアも対抗しようとするだろう。
アジアでは、北朝鮮の核・ミサイルに対するミサイル防衛システムなど米国の軍事プレゼンスが高まっている。警戒するロシアは択捉空港の軍民共用化を決めるなど、北方領土を含む千島列島で軍備を強化している。ロシアにとって北方領土の軍事的価値は高まっている。
こうした状況では、ロシアが北方領土を手放すことはないだろう。交渉環境は厳しさを増している。
日露間では「新しいアプローチ」の実績として昨年、北方領土の元島民らによる墓参に初めて空路が使われた。共同経済活動の協議も続いている。だがこうした積み重ねの延長線上には、領土問題を打開する出口は見えてこない。
対露政策全般の見直しも検討すべき段階にきているのではないか。
2018年2月8日 産経新聞の社説です。
北方領土の日 ロシアの不誠実さ許すな
2月7日は「北方領土の日」だ。日本固有の領土である四島を、ロシアが不法占拠したままになっていることを国民が改めて心に刻み、返還要求の力に結びつける機会となるべき日である。
だが、ロシアはこの日を狙いすますように、北方領土で軍事演習を始めた。国後島で破壊工作を行う敵勢力を捜索し、阻止する作戦の訓練を行うという。
日本国民の思いを嘲笑するかのような不誠実な態度を、看過することはできない。
ロシア政府はこれより先、択捉島の民間空港を軍民共用とするよう命じる政令を出した。本格的な空軍部隊を駐留させる布石とみられている。国後、択捉には新型巡航ミサイルが配備された。軍事拠点化は北方領土の不法占拠を強めるものであり、認められない。
北方領土での軍事演習について、河野太郎外相は遺憾であるとして抗議を申し入れた。
それは当然だとしても、ロシアが形ばかりの抗議など意に介さないのは明らかだ。日本の対露政策が、相手から足元を見られるものとなってはならない。必要に応じ、現在の協議を打ち切る強い姿勢で臨むことを求めたい。
安倍晋三政権は、北方領土での共同経済活動の実施を足がかりに領土問題を進めるとしている。だが交渉は順調とはいえない。
双方の法的立場を害さないという「特別な制度」を目指す構想自体、法技術的に無理があり、日本の主権を危うくしかねない。
ロシアはさらに、北朝鮮をにらんだ日本のミサイル防衛態勢強化に難色を示し、交渉に絡めてきている。
安倍首相は、北方領土返還要求全国大会のあいさつで、ロシアとの「平和条約のない異常な状態」を終わらせるとの考えを示した。プーチン大統領との間で20回も首脳間の話し合いを重ねた点にも触れ、5月に予定するロシア訪問に意欲を示した。
日本が目指すべきは北方四島の返還だ。そこがおろそかになり、経済的支援だけ与えるような交渉では国益を損なう。ロシアが身勝手な言動を重ねる現状に、国民が疑念を抱いてもおかしくない。
ロシアによるウクライナのクリミア併合は、北方領土問題と同根といえる。相手は軍事力で現状変更を図る国であることを、けっして忘れてはならない。
2018年2月8日 毎日新聞の社説です。
戦後73年の「北方領土の日」 厳しさがつのる交渉環境
きのうは「北方領土の日」だった。1855年に択捉島の北を日露間の国境と定めた日露和親条約の締結日にあたる。
東京都内で開かれた返還要求全国大会で、安倍晋三首相はプーチン露大統領と20回の会談を重ねてきた実績を踏まえ、領土交渉を「一歩一歩着実に前へ進める」と約束した。
戦後73年となり、元島民の3分の2はすでに他界し、残る約6000人の平均年齢は83歳になった。一刻も早く解決しなければならない。
2016年12月に山口県で行われた日露首脳会談は、領土交渉をいったん棚上げし、北方領土での共同経済活動などを通じて信頼関係を高め、平和条約締結につなげていく「新しいアプローチ」に合意した。交渉方針の大転換だった。
それでも日本には、解決に意欲を見せるプーチン氏が今年3月の大統領選で再選されれば、打開へ動き出すのではという期待があった。
ところが情勢は大きく変わった。
昨年1月、対露改善を唱えて就任したトランプ米大統領だったが、この1年で米露関係はむしろ悪化した。さらに2日公表された米国の「核態勢見直し(NPR)」は、ロシアへの対抗措置を強く打ち出した。
この中で米政権は、ロシアが局地戦で小型核兵器を使用する可能性に対抗するため、小型核弾頭や核巡航ミサイルの開発による核戦力強化へかじを切ると宣言した。ロシアも対抗しようとするだろう。
アジアでは、北朝鮮の核・ミサイルに対するミサイル防衛システムなど米国の軍事プレゼンスが高まっている。警戒するロシアは択捉空港の軍民共用化を決めるなど、北方領土を含む千島列島で軍備を強化している。ロシアにとって北方領土の軍事的価値は高まっている。
こうした状況では、ロシアが北方領土を手放すことはないだろう。交渉環境は厳しさを増している。
日露間では「新しいアプローチ」の実績として昨年、北方領土の元島民らによる墓参に初めて空路が使われた。共同経済活動の協議も続いている。だがこうした積み重ねの延長線上には、領土問題を打開する出口は見えてこない。
対露政策全般の見直しも検討すべき段階にきているのではないか。
2018年2月8日 産経新聞の社説です。
北方領土の日 ロシアの不誠実さ許すな
2月7日は「北方領土の日」だ。日本固有の領土である四島を、ロシアが不法占拠したままになっていることを国民が改めて心に刻み、返還要求の力に結びつける機会となるべき日である。
だが、ロシアはこの日を狙いすますように、北方領土で軍事演習を始めた。国後島で破壊工作を行う敵勢力を捜索し、阻止する作戦の訓練を行うという。
日本国民の思いを嘲笑するかのような不誠実な態度を、看過することはできない。
ロシア政府はこれより先、択捉島の民間空港を軍民共用とするよう命じる政令を出した。本格的な空軍部隊を駐留させる布石とみられている。国後、択捉には新型巡航ミサイルが配備された。軍事拠点化は北方領土の不法占拠を強めるものであり、認められない。
北方領土での軍事演習について、河野太郎外相は遺憾であるとして抗議を申し入れた。
それは当然だとしても、ロシアが形ばかりの抗議など意に介さないのは明らかだ。日本の対露政策が、相手から足元を見られるものとなってはならない。必要に応じ、現在の協議を打ち切る強い姿勢で臨むことを求めたい。
安倍晋三政権は、北方領土での共同経済活動の実施を足がかりに領土問題を進めるとしている。だが交渉は順調とはいえない。
双方の法的立場を害さないという「特別な制度」を目指す構想自体、法技術的に無理があり、日本の主権を危うくしかねない。
ロシアはさらに、北朝鮮をにらんだ日本のミサイル防衛態勢強化に難色を示し、交渉に絡めてきている。
安倍首相は、北方領土返還要求全国大会のあいさつで、ロシアとの「平和条約のない異常な状態」を終わらせるとの考えを示した。プーチン大統領との間で20回も首脳間の話し合いを重ねた点にも触れ、5月に予定するロシア訪問に意欲を示した。
日本が目指すべきは北方四島の返還だ。そこがおろそかになり、経済的支援だけ与えるような交渉では国益を損なう。ロシアが身勝手な言動を重ねる現状に、国民が疑念を抱いてもおかしくない。
ロシアによるウクライナのクリミア併合は、北方領土問題と同根といえる。相手は軍事力で現状変更を図る国であることを、けっして忘れてはならない。