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クロード・レヴィ=ストロースは1908年、 ベルギーのブリュッセルに生まれました。 父親は画家、ひいお爺ちゃんは作曲家という芸術一家に生まれたため、 幼い頃から芸術に親しむ暮らしをしていました。 日本の芸術にも興味を持っていたと言います。 高校生の頃、マルクス主義の影響を受け、社会主義運動に参加していたこともあります。 ソルボンヌ大学を卒業すると、哲学教授資格試験に合格し 高校教師としてのキャリアをスタートさせます。 この年の試験の合格者には他にもメルロ=ポンティや サルトルの内縁の妻であったシモーヌ・ド・ボーヴォワールもいました。 その後、ブラジルに新しく作られるサンパウロ大学で社会学の教授をやらないかという誘いを受け、ブラジルでの生活が始まります。 社会学の教授をしながら、アマゾン川の支流に暮らす原住民族の調査を通して、構造主義の思想を固めていきます。 フランスに帰国後、第二次世界大戦の影響でアメリカに亡命。 その後、主著である【親族の基本構造】【悲しき熱帯】【野生の思考】などを出版します。 レヴィ=ストロースといえば、構造主義です。 構造主義とは、人間の社会・文化的現象の背後には目に見えない構造があると考える思想のことで、 この思想が出てきたことによって、それまでに勢いのあった 実存主義の息の根を止めることになりました。 当時の実存主義者の代表格といえば【サルトル】です。 サルトルは、人間は歴史に投げ込まれた自由な存在だとし、 自由の刑に処されている人間は、自らが歴史に参加することによって 新たな歴史を形作っていくことができると呼びかけました。 社会情勢が不安定な当時において、民衆はこの考え方に熱狂し、 一大ムーブメントを形成していたのです。 レヴィ=ストロースはこのサルトルの考え方に待ったをかけます。 サルトル的な【歴史】とは西洋文明の歴史を指します。 しかし、それは他の文明や民族を考慮していない偏見でしかなくて サルトルの『人間によって歴史がより良い方向に進む』という主張は 西洋的な価値観の押し付けであると考えたのです。 同時に、サルトルは人間は根元的に自由であるというけれども、 本当は人間の思考と行動は、その根底にある社会・文化的な構造に支配されているのではないか? そのように主張するのです。 このような思考に至ったきっかけは、 レヴィ=ストロースが南米に住む【未開人】を研究したことにあります。 西洋の進化はいわば設計図のある進化です。 歴史を通して、ある地点に向かって合理的、論理的に進んでいくことを良しとします。 これを【科学的思考】と表現しても良いでしょう。 しかし、その進化の先には戦争や環境破壊がありました。 一方で、未開人の生活には設計図がありません。 言い換えると、西洋的な歴史すら存在しないと言えるでしょう。 彼らはその日その日で、その場にある有り合わせの材料を使い、 それによってただ生きています。 このことを【ブリコラージュ(器用仕事)】と表現します。 無意識に西洋的な文明を拒否しているとも取れますね。 西洋的な立場から見ると、これは原始時代の自分たちをみているようで 『遅れている』と捉えてしまいがちですが、 冷静にその民族単位で考えると、その民族が生存していく上で 非常に合理的で論理的な生活だと判断することもできます。 彼らの生活においては、大きな戦争や、環境破壊は起きていません。 このような未開人の思考を【野生の思考】と表現しました。 以上のように、レヴィ=ストロースは未開人の文化を 西洋的な技術や科学の発展の、ある一段階ではないと考えます。 それまでの西洋的な他の文化に対する見方はこのようなものでした。 自分たちが一番先頭を走り、他の文化は全て自分たちの過去に位置している。 それらの文化も十分な時間がたてば、そのうちに自分たちの位置まで登ってくる。 レヴィ=ストロースはこれを傲慢だと言い放ったわけです。 そうではなくて、未開人の思考は西洋の科学的思考とは別の体系をとっており、 それはそれで違う方向性を持っているのです。 西洋的な偏見を捨て去って、未開人の思考を全く別の文化として認めると 何が起きるでしょうか? レヴィ=ストロースはここにソシュール的な認識の転回を当てはめます。 ソシュールは言語が集まって全体である世界を構成しているのではなく、 全体という構造が先にあって、その中で対立や差異が発生することで それぞれの言語が生まれると考えました。 このスキームを人類に当てはめると、 個人が集まって社会が形成されているのではなくて、 社会・文化という構造が先にあって、その中の対立や差異により個人が成立している。 と考えることができます。 ソシュールが言語の差異や対立を研究することで構造を明らかにし 言語を真に理解しようとしたのに対し、 レヴィ=ストロースは社会や文化の差異や対立を分析することで、 そこに眠る根本的な構造を把握しようとしたのです。 これが、構造主義の始まりです。 次回は彼がその視点によって見つけた構造の一部を紹介したいと思います。
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