哲学チャンネル より トロッコ問題と古典功利主義【正義と善#2】を紹介します。
ここから https://www.youtube.com/watch?v=c3jUjGvtUhY
動画の書き起こし版です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【トロッコ問題】という有名な話があります。 アリストテレスの倫理学を専門にし、現在の徳倫理学の基礎を築いた一人とされる フィリッパ・フットが提唱した思考実験です。 『線路を走っていた路面電車が制御不能になった。 このままでは前方で作業をしている5人が轢き殺されてしまう』 【トロッコ問題】は以上の前提のもとはじまります。 あなたは路面電車の運転士である。 あなたが進路を切り替えれば5人は確実に助かる。 しかし進路変更先ではA氏が作業しており5人の代わりにA氏が死んでしまう。 このとき進路を切り替えたあなたの行為は許されるものか? これは思考実験ですから、論点を明確にするために 他にあなたが取れる方法はないとします。 また、法的な問題も無視し、道徳的に許されるのか? のみに焦点をあてることが望ましいでしょう。 これはまさに前回の動画で挙げた『ミニョネット号事件』と 同様の問題を抱える思考実験です。 5人を殺してしまうぐらいなら1人を犠牲にしてもかまわないのか? 逆に、本来は死ななかったはずの1人を助けるために5人を犠牲にするのはかまわないのか?とも問い直せます。 ちなみに【トロッコ問題】には以下のような派生パターンもあります。 あなたは線路を見下ろす橋の上に立っている。 隣にはとても太った男がいる。 男を突き落とせば電車を止めることが出来るがその男は死ぬ。 突き落とすのは正しい行為であろうか? 本質的には同じ条件と言えそうですが、 そこに『突き落とす』という、より自己に責任が発生する要素が追加されています。 後者の方が前者よりも『正しくない』と感じる方が多いのですが これもよく考えると不思議なことです。 このような問題に対して功利主義はこう答えます。 『その決定の全ての利益を足し合わせ、全てのコストを差し引いたときに その決定が他の決定よりも多くの幸福を生み出すならばその決定は是である』 つまり、登場人物6人の生き死にの価値が同様だと仮定した場合、 A 5人が死に(5つのコスト)1人が生き残る(1つの利益)場合は 差し引き4のコストを払うことになる B 1人が死に(1つのコスト)5人が生き残る(5つの利益)場合は 差し引き4の利益を得ることになる。 このことから後者の選択の方が全体の利益に貢献している。 と考えるのです。 このような功利主義の姿勢を 『最大多数の最大幸福』と表現します。 特にベンサムが提唱したいわゆる『量的快楽主義』においては 快楽や苦痛を量的に数値化できると考えます。 量的に数値化した個人の効用を全て足し合わせたときに それが最大化されるような決定や政策を是とする。 これが古典功利主義の主張です。 このように、効用を数値化して足し合わせた結果を 正義の判断基準とすることから ベンサムの功利主義を【総和主義】と表現することもあります。 【トロッコ問題】においては人の生き死にを取り扱います。 そのため、極論に感じてしまいますが、 同じような問題は世の中の様々なところに存在しています。 例えば、国家を構成するメンバーが5人で、 1人がお金持ちで、後の4人が貧乏だった場合。 この状況でお金持ちが残りの4人に100万円ずつお金を渡すとします。 その際にお金持ちの幸福度が100から95になり 貧乏人の幸福度が5から10になったとしましょう。 このケースにおいてはお金を配る前の幸福度の総和が115。 配った後の幸福度の総和が135になるため このような税制を作り、お金を配分することが正当化されます。 私たちが何かを判断する際に『功利主義的な』思考をすることも 少なくないように思います。 功利主義の基本的な主張をまとめるとこのようになります。 【トロッコ問題】からもわかるとおり、 (古典)功利主義においては行為自体の道徳性を重視しません。 あくまでも行為の結果が重要で、極端に言えば 「結果良ければ全てよし」の姿勢です。 このような立場を【帰結主義】と呼称します。 また、古典功利主義における善の価値は快/不快で判断されます。 全体の快が多ければ善いことだし、不快が多ければ悪いことです。 つまり、功利主義においては個人の快/不快は考慮されるものの 全体にとっての利益ならば、一部の不快は許容される可能性があるのです。 ミニョネット号事件では、全体の快のために一人の命が犠牲になりました。 仮にそれぞれの快/不快を数値化できるとして、 その総和が『仲間を殺さない』ときの結果を上回るならば 功利主義はミニョネット号事件の判断を是認します。 みなさんはこの帰結についてどうお考えになりますか? ご意見ありましたらぜひコメントください。 次回は功利主義の分類について解説します。 以上です。
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