【朗読】芥川龍之介『疑惑』
■大正8年(1919年)7月発行『中央公論』掲載作■
実践倫理学者である「私」は 十年あまり以前、講演のため訪れた岐阜県大垣町で、ある奇妙な男と出会った。 男は「中村玄道」という四十恰好の元教師で、左手の指が一本欠けていた。 毎日私の講演を聴きに出ているという彼は、折り入って私に聴いてもらいたいと… 過去、この地で起きた濃尾大地震(おおじしん)に端を発する悲劇、そして、人間の心に対する疑惑を、語った… (作業用・睡眠用としてお聴きください)
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【目次】 00:00 前説 00:55 本編 54:12 後説
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【書籍】
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▼青空文庫 https://www.aozora.gr.jp/cards/000879...
青空文庫より(一部抜粋)
しかもその際私の記憶へ鮮に生き返って来たものは、当時の私が妻の小夜を内心憎んでいたと云う、忌わしい事実でございます。これは恥を御話しなければ、ちと御会得が参らないかも存じませんが、妻は不幸にも肉体的に欠陥のある女でございました。(以下八十二行省略)………そこで私はその時までは、覚束ないながら私の道徳感情がともかくも勝利を博したものと信じて居ったのでございます。が、あの大地震のような凶変が起って、一切の社会的束縛が地上から姿を隠した時、どうしてそれと共に私の道徳感情も亀裂を生じなかったと申せましょう。どうして私の利己心も火の手を揚げなかったと申せましょう。私はここに立ち至ってやはり妻を殺したのは、殺すために殺したのではなかったろうかと云う、疑惑を認めずには居られませんでした。私がいよいよ幽鬱になったのは、むしろ自然の数とでも申すべきものだったのでございます。
次の部分が気になります。
妻は不幸にも肉体的に欠陥のある女でございました。(以下八十二行省略)
何を省略したのでしょうか?
差別表現か?
地震を利用した殺人?安楽死?
深い作品です。