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酔いどれの誇りと踊る熊へ

村上龍著「最後の家族」を読みました

2017-04-26 21:26:46 | 日記
「最後の家族」
2001年の作品。

買って積読のままにしていた。
夜中ふと本棚から出して読み始めた。止まらなくなった。

内山家の家族を中心にした話。
リストラの恐怖と倒産の不安を毎日かかえている父=秀吉
一回り以上年下の男と逢引しているその妻=昭子
家庭内暴力と引きこもりの長男=秀樹
自由奔放に生きる長女=知美

家庭内暴力、醒めた夫婦間、隣人夫婦のDV、覗き、等々…日常生活に埋没している闇が描かれる。

そんなバラバラの家族が模索しながらどん底に落ちながらも再生していく。

特別な家族の形でなくどこにでもある風景。

バラバラの家族はお互いが依存しあって生きている。それに行き詰っていく。

自立とは何か、作者は問いかけてくる。

望遠カメラで偶然覗き見をしてしまったDV夫と妻の姿。

戸惑いながらも引き込まれていく秀樹は自分をコントロール出来ずに日常的に母を殴り父を親を蹴りつける。

気の遠くなるような住宅ローンと生活費の心配を日夜している父秀吉のもろくも崩れそうな社会的地位。そして過剰に気にする世間体。

息子の暴力に怯える母親昭子、皆が生きる余裕すらなくしている


DV夫から助け出そうとする引きこもりの息子秀樹が女性弁護士から見透かされたように言われる言葉に愕然とする。

「救いたいという思いは、案外簡単に暴力につながります。それは、相手を、対等の人間として見ていないからです。
対等な人間関係には、救いたいという欲求はありません。…」
「彼女は可哀相な人だ、だから僕が救わなければいけない。……ぼくがいなければ生きていけないくせにあいつの態度は何だ、と言う風に変わるのは時間の問題…」

歳の離れた彼氏から一緒にイタリアで生活しないか誘われた知美も迷いながら答えを一旦保留にするものの…

知美はぞっとした。私はこれで自分で決定しなくても済むと思ってほっとしたんだ。
自分で決めるというのは苦しいことなんだ。

とうとうリストラされ家も売り払い独り暮らしをし始める父秀吉も群馬の故郷にささやかな喫茶店を開く。

妻昭子は必要とされ請われていたボランティア団体で働き始め、年下の彼氏と結ばれる。しかし離婚はしない。そこに彼氏も理解を示す。

息子秀樹も法律の勉強をしながらと福祉関係の手伝いをし始め独り暮らしをする。

娘の知美はやはりイタリアへ旅立つ。

そうそれぞれが自立心を持ってそれぞれの生きる場所へ旅立った。そんなかたちで物語は終わる。

終の棲家を失いバラバラになった家族であるがその姿が清々しい。

そう、そこには自立心が芽生えたからだ。

この小説にはその芽生えるまでのプロセスが丁寧に描かれている。

だから力が湧いてくる。

元気になってくる。

再生と復活。

その先には微かでも希望の光が見える。


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