昔々、私の家には楕円形をした木製の風呂桶があった。
まるで酒樽のように周りをタガで締められて水が漏れないようにと作られていたのだが、少しずつ木が腐食してきたのか浴槽を交換することになった。
それで生まれて初めての風呂屋通い。
真冬の凍えるように寒い中、歩いて近所の風呂屋へ行った。
初めての風呂屋は驚きの連続。入口がオトコとオンナで別なのもショックだったが、母親に手を引っ張られてオトコなのにオンナの方に引き摺られたのもショックだった。
色々なオッパイを楽しむ余裕は無くて、逆に見られないようにとモジモジ。
そこで見つけたのが同じ幼稚園に通うY子ちゃん。確か菓子問屋の娘だった。
Y子ちゃんも驚いたようだが、私の驚きに比べたら小さいに違いない。
何しろ周りはオンナばかりで部外者は私の方なのだから。
構造的にオンナはパッカンと開かなければ見られないが、オトコはパッカンしなくても見られてしまう。
結局私はY子ちゃんに初めて見られたオトコになった。
当時人見知りが強くて無口な私は、翌日の幼稚園ではさらに無口。
Y子ちゃんと視線を合わせることさえできず静かにしていたのに、彼女は今まで以上に親しげに寄って来た。
既に私のことを「自分のモノ」と思っていたのかも知れない。