自己と他者 

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森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』

2006-12-26 14:43:04 | 小説

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森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』(中央公論新社)

シリーズ4作目。クサナギがキルドレから・・・・。詩のように展開される文がリズミカルでいい。

p.20

「ただ、言葉というのは、いつもこんな風に、きれいに飾って現れるものなんだ。人の心の中を見せているわけでは決してない。ただ、そんな飾られた言葉でさえも、あるいはまるで嘘であっても、飾られていることがうれしい、嘘で守ってくれたことがうれしい、と感じられるときがある。~」

p.230

僕の眼に飛び込んでくる輝きがあった。

ほんの少し右へ倒すと、自然に、世界が反対へ回る。

上が下へ、右は左へ。

空気を切る音。

フルートのような。

白い筋がすっと現れ、たなびく。

鳥だってここまでは上がってこない。

広く。

綺麗な。

空気の上澄みが、僕たちを浮かせて。

響き、叫び、唸り。

震え、擦れ、刻み。

革命も低い。

式典も低い。

どんなイベントもずっと下。

下、下、下。

ここまで上がってこない。

知っているんだ。

僕はここを知っている。

ここへ来られたことを、誇りに思って。

ここにいるすべてを敬い。

ここにいるすべてを愛し。

また、きっと、いつか、

ここへ戻ってくることを誓って。

掠め、切り、掴み、放ち。

返し、戻し、仰ぎ、潜り。

突き、抜き、振り、噛み。

撃ち、捻り、抉り、倒し。

舞え。

散れ。

砕け。

知っているんだ。

命がここにあることを。

僕の命も、

君の命も、

すべてがここにある。

ここにあった。

堕ちていった奴らの命さえも。

ここにある。

ずっと・・・。

甘く、淡く、続く、命。

赤く、熱く、迸る、血。

膨れ上がる火炎。

突き刺さった破片。

後から追ってくる爆音。

知っているんだ。

ここを。

僕は知っている。

だから、

きっと、ここでしか、僕は生きられないだろう。

空。

空。

ここでしか、知ることはできない。

p.249

人は力を持っている。

力に憧れている。

力が欲しい。

それが自由だと知っているからだ。

花束で、どんな自由が得られるだろう。

花束を持っていれば、岩を登っていけるだろうか。

花束を持っていれば、水中深く潜れるだろうか。

人を自由にするのは、力だ。

人はそれを持っている。

自分の力を信じること、それが力の意味だ。

僕は飛べる。それが僕の力であり、自由なのだ。

そして、飛び続けるために、僕は戦う。

何のためでもない。

何も欲しくない。

誰のためでもない。

誰も褒めてはくれない。

ただ、飛び続けたい。

僕が僕であり続けたい。

生きているかぎり。