永井紗耶子著
「木挽町のあだ討ち」
7ページより
木挽町の仇討
睦月晦日の戌の刻。
辺りが暗くなった頃、木挽町芝居小屋の裏手にて一件の仇討あり。
雪の降る中、赤い振袖を被き、傘を差した一人の若衆。
そこに大柄な博徒が歩み寄り、女と見違え声を掛けた。
すると若衆、被いた振袖を投げつけて白装束となる。
「我こそは伊納清左衛門が一子、菊之助。
その方、作兵衛こそ我が父の仇。
いざ尋常に勝負」
朗々と名乗りを上げて太刀を構えた。
対する博徒作兵衛も長脇差を抜き放つ。
道行く者も固唾を呑んで見守るなか、堂々たる真剣勝負の決闘。
遂に菊之助が作兵衛に一太刀を浴びせた。
返り血で白装束を真っ赤に染め、作兵衛の首級を上げた菊之助、
野次馬をかき分けて宵闇に姿を消した。
この一件、巷間にて「木挽町の仇討」と呼ばれる
鬼笑巷談帖
芝居の町木挽町にこの話題になった仇討ちの話を詳しく聞きたいと
ある人物がたずねてきたところから話が始まります
その時の様子をひとり、また一人と語り始めます
そして、話してくれた人のこれまでの来し方も聞かせてくれとのこと
まず最初は、元幇間、今は木戸芸者の一八
次は、殺陣師、与三郎
楽屋での衣装係ほたる
小道具係久蔵夫婦
最後に元旗本次男、戯作者篠田金治
それぞれがそれぞれの悩み苦しみを経て
今の自分の立ち位置を芝居小屋で見つけています
彼らはしたくない仇討ちをしなければならない菊之助に寄り添います
終幕 国許屋敷の場で、
仇討ちを果たして国許に戻って嫁ももらった菊之助の口から
詳細が語られます
1幕から5幕までの点が見事なまでに線で繋がっていて
読者を唸らせます
寄席で話を聞いているような感覚になったり
歌舞伎をみているような気になったりと
色んな仕掛けに本当にやられます
山本周五郎章を受章しており、
今回の直木賞候補にもあがっています
絶対取って欲しい
梅雨のうっとうしい今日この頃です
この本をぜひ手に取ってみてください
素晴らしい本です
本当にお勧めです