葉室麟著
「潮鳴り」
一気読みしました
主人公もいいのですが、女性二人がすごくいい
主人公 伊吹櫂蔵 26歳
九州豊後の羽根藩士
かって藩校では俊英と謳われた
が今は見る影もなく櫂蔵ではなく襤褸蔵とさげすまれるまでに身を落としていた
うまく立ち回れない性格で、お役御免になった
家督は継母が産んだ新五郎が継いだ
海辺の漁師小屋に住み、お芳という女のやっている飲み屋で酒に溺れる毎日
このお芳も男にだまされ捨てられた暗い過去を持つ
「落ちた花は、二度と咲けやしません」
とつぶやく
そしてもう一人、そこの飲み屋に咲庵という旅の俳諧師がいた
彼も妻子を捨てた過去を持っていた
ある日、彼はできのいい弟新五郎が自殺したことを知らされる
弟のために何もできなかった自分にこの世から消えたいと海に入っていく
その櫂蔵をお芳が止めた
「どんなに辛くても自分で死んじゃいけないんです。
そんなことをしたら、未来永劫、暗いところを亡者になって彷徨わなきゃならなくなる。
辛くてもお迎えが来るまでがんばって生きたら
極楽の蓮の上で生まれ変われるって、祖母がいってました。
だから、この世で辛い目にあっているひとほど、自分で死んじゃいけないんです」
彼は、弟に代わり、もう一度家督を継ぎ、弟の自殺の真相を探ることを決意する
気の合わない継母染子のいる家に、咲庵とお芳を連れて帰る
櫂蔵はお芳を妻にするというが染子が許すはずもない
お芳は染子から罵倒されるが、女中でいいからここにおいてくれと懇願する
櫂蔵が落ちた花をもう一度咲かせるのを見たかったのだ
彼が咲かせることができたら自分も咲かせることができるのではと思ったのだ
染子はお芳に辛く当たる
が、お芳は嘘をつかないということを信念に彼女につくした
そして染子は・・・
そしてお芳は・・・
櫂蔵は、咲庵と新たな仲間と一緒に真相をあばいていく
彼は新郡代の田代宗彰から、
「そなたは自分を鷹と梟の、いずれだと思うておる」
と聞かれる
櫂蔵は梟だと答える
「俗に時鳥はてっぺんかけたかと鳴き
鶯はほー法華経と鳴く
そして梟は襤褸着て奉公と鳴く」
「なるほど、殊勝なる心がけではあるが、一度堕落いたせしものが
這い上がりたいとあがくあさましさのように見えぬでもないな」
と言われる
落ちるとこまで落ちて襤褸蔵と言われた自分
「落ちた花は二度と咲かぬと誰もが申します
さようかもしれません
ただ、二度目に咲く花はきっと美しかろうと存じます
最初の花はその美しさも知らず漫然と咲きますが
二度目の花は苦しみや悲しみを乗り越え、かくありたいと願って咲くからでございます」
事の真相もあばかれ、櫂蔵は勘定奉行に登用される
潮鳴りもどう聞こえてくるかは、その時のその人の感情で大きく違う
櫂蔵も咲庵も潮鳴りが心地よく聞こえた
とまあ、こういうストーリーです
読後感のいい小説です
涙をふくハンカチは必須です