硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

あとがき

2013-10-11 08:21:15 | 日記
「犬を飼うということ」いかがでしたでしょうか。 この物語を思いついたのは報道番組で「保健所」の実際を見たからです。
その時、とても切ない気持になって考えていたんですが、タイミング良く小説の公募があったので、この切ない気持をはきだしておこうと思って物語の創作に取り組んだのです。

そして、5年の間寝かしておいた自分の言葉をもう一度掘り起こして整える作業はとても有意義なものとなりました。
これも、飽きることなく僕の文章を読んでくださる皆さんのおかげです。この場を借りてお礼を申し上げます。

また、明日から通常ブログに戻りますが、物語を期待してくれる方は、いつまた始まるかもしれませんので、ゆっくりと気長にお付き合いください。

「犬を飼うという事」最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。

「犬を飼うという事」  最終話

2013-10-11 08:15:40 | 日記
次の日、学校でまたみんなと遊んでいると、次郎君が突然思い出したように、

「むつき。そういえばさ、あの問題どうなったの? 」

と、聞いてきた。昨日の夜、お父さんから答えを教えてもらったばかりだったから、余裕をもって、

「へへへっ。答えはわかりました。」

「おおっ!それで、それで!」

問題につき合ってくれたみんながいっせいに聞いてきた。でも、お父さんのように長い説明はできないから、最も大切な事だけ言う事にした。

「お父さんが言うには命を尊ぶ事だってさ。」

「命を尊ぶ? 」

「うん。でもさ、どういうことだかよくわかんないでしょ。」

「う~ん。たしかに難しいね。」

「次郎君は、犬を飼っていて犬の命や気持ち生き方を考えた事ってある? 」

「いやぁ、ないなぁ。 犬がいると楽しいなって思う事はあるけれど、それだけかなぁ。」

すると、吉行君も、「そこまで、考えないでしょ。ふつう。」と、言った。

「そうだよね。そこまで考えないよね。だからさ・・・。」

みんなが注目している。僕は自分で決めた事を言ってみた。

「飼わない事にしたんだ。」

そうしたら、いっせいに返事が返ってきた。

「なんだよそれぇ」

「そうよ。おかしいじゃない。」

「あれだけ考えておいて、飼わないのかよ。」

「うん。今はその方が犬のためには良いと思うんだよ。」

と、言うと唯ちゃんに「へんなの。」と、冷たく言われた。その時、唯ちゃんの可愛らしさが歪んで見えた様な気がした。

その日のお昼休みに、僕は如月性にお礼を言うために職員室に向かった。

「失礼します。」

「田辺君。どうしたの?」

「先生。答えありがとうございました。」

「あら、さっそく伝えたのね。それで、答えは合っていた?」

「間違いでは無かったよ。」

「よかった!」

「でね。犬を飼うつもりだったけれど、もう少し考えるとことにしたんだ。」

「へぇぇ。それはどうしてなの?」

「犬の命を尊ぶと言うことがよくわからないから。」

と、答えると、先生はニコッと笑って、

「良い答えだと思うわ。今は難しくて分からないかもしれないけれど、きっといつかわかる日が来ると思う。その時、むつき君は素敵な人になっていると思う。楽しみだわねぇ。」

なんだか、照れくさい。でも、先生に助けてもらわなかったら出せなかった答えだと思ったから、

「先生ありがとう。」

と、お礼を言うと、先生もうれしそうに、

「また、問題を出されたら先生にも教えてね。一緒に考えよう。」と、言ってくれた。

職員室を出た僕は、廊下を歩きながら、答えが見つかるまでのことを考えていた。ここまでたどり着くにはずいぶん時間がかかったけれど、次郎君が言ってたように、犬が家にいたら可愛いとは思うけれど、その犬の命を尊ぶ事が今は出来ないんじゃないかと思う。それは難しく考えすぎなのかもしれないけれど、今の僕にとっては間違った答えではない。

「うん。やっぱり今はこれでいいや。」

そう思った時、今までには感じた事のない、いい気持ちになった。