硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 週末を超えて。

2020-04-12 19:11:38 | 日記
気が付くと降車駅のアナウンスが流れていた。おしゃべりをしていた女学生はいつの間にか降りており、澪は慌ててイヤホンを外すと、カバンにしまい、電車を降りて、人もまばらな構内を抜けて、地上につながる階段を駆け上がると、地域住民の衣食住を支える小規模の商店街を足早に通り抜けた。
そのアーケードを抜けた先に須佐之神社はあった。
ごつごつした石柱で出来た5段の階段を登り、明神鳥居を潜ると、手入れされた雑木林の中を通る石畳の参道の先に須佐之神社の本殿が見える。その右隣りには、道場、その横に澪の自宅があった。

「ただいま。」

玄関に入り、帰宅を知らせても誰からの応答もない。仕方なく、家に上がり、リビングに行くと、食卓の上に一枚のメモが置いてあった。手に取ると、そこには「狩衣に着替え、すぐに本殿に来るべし」と記してあった。本殿に来いというのだから、ただならぬことがあるのだと察知し、カバンを放り出すと、20歳の時に父から譲り受けた古い紺色の狩衣を纏い、本殿へ走った。

拝殿の階段を上り、扉を開けると、父、伊佐木は懐中烏帽子、狩衣、神官袴、麻沓のいで立ちで、手には笏を持ち、神殿の前に立っていた。

「父さん。なにがあったの。」

「事は急を要する。そこに正座しなさい」

澪は、黙って父の前に正座をした。よく見ると、神殿の前には、白い布に欠けられたものが祀られていた。伊佐木は神殿に向くと、「掛けまくも、畏き伊邪那岐大神筑紫の~」と祓詞を唱えはじめ、澪は首を垂れて、父の唱える祓詞を聞き入った。