硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 週末を超えて。

2020-04-08 21:19:34 | 日記
8時の時報が鳴る。澪は稽古を止め、道具をしまい、身支度を整えると、人もまばらな学食へ向かい、朝食を戴いた後、少し休息をとり、授業へ向かう。それが、いつもの習わしであった。南向きのオープンテラスから見える、色づき始めた木々を見ながら、熱い緑茶をゆっくり飲んでいると、野球部の朝練を終えた、文学部の同級生が声をかけてきた。

「剣豪。おまえ、11時からの講座受けるだろう。あれ、休みになったぞ。」

「えっ、そうなの。ありがとう。」

こういう時、時間の使い方をあれこれ考えてしまうのが常であるが、そういう時には図書館に籠ると決めており、時間の使い方にも無駄がなかった。そして、講座までのわずかな時間も読みかけの文庫本を開いてしばし読書に耽った。
8時45分になると、朝食のトレイを返却口に返し、9時からの講座を受ける為、教室に向かった。学食から一度外に出て、校舎沿いに敷かれた道を歩いてゆくと、3階建てのモダンな建物の中に文学部はあった。
教室に行くと、すでに、20名ほどの生徒が席につき、教授が来るのを待っていた。というより、お喋りをしたり、携帯をいじったり、めいめいが好きな事をして時間を潰していた。
その中には、澪の片思いの女子もいる。
彼女の名は、浅田みゆ。150センチにも満たない小柄で、少しぽっちゃりしていて、ファッションは今時のトレンドを身に着け、食レポを得意とする人気タレントに似ていた。
澪はさりげなく彼女の座る席の方に行き、「ここ開いてますか? 」と尋ねると、浅田みゆは、満面の笑みで「あ~須佐之君。おはよ~。どうぞぉ~。」と、返事した。その時、澪の気持ちは高揚し、幸福感に包まれた。
しかし、いつもの事ではあるが、それ以上の距離は縮めることは出来ず、恋愛感情というものには、とんと無力で、浅田みゆの前では、平常心を失う愚かな男でもあった。