硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 26

2021-04-07 18:25:38 | 日記
「いいよ。ちょっとまってて。」

返事をして、掃除をきちんと終わらせる。「どれなの? 」と聞くと、「あれなの。ホントにごめんね。」と言って、指さした先には、段ボール箱から溢れそうになっている不要物が、教室の隅にその役目を終え佇んでいた。

「任せておいて。」

すぐさま、段ボール箱を抱えると、ゴミ捨て場に向けて教室を出ると、「川島君。」と、僕を呼び止める声が聞こえ、振り返ると、真島さんはゴミ箱を両手に抱え後を追いかけてきた。

「ちょっと待って、川島くん! 」

急いで終わらせることだけしか頭になかったから、かっこ悪いことをしてしまった。
すぐに、「ごめんね。」と平謝りをすると、

「こちらこそ。せっかく頼んだのにごめんなさい。」

と、しとやかに頭をコクンと下げた。そのしぐさに、ドキッとして、「ああ、なるほどなぁ」と、今更ながらに、男子からの人気の高さを実感した。

二人並んで、階段を下りてゆく。今までにないシチュエーション。他の男子が「真島とデートか。羨ましいなぁ。」と茶化してくる。
照れくさくなって、「ごみを抱えてデートなわけないだろぉ! 」と反論。
気まずさもあって、誤魔化すように「ねぇ。真島さん。」と、声をかけると、うつむいたまま小さな声で、

「あのっ、川島君。川島君って、好きな人とかいるの? 」

と、尋ねてきた。
予想外の質問に驚き、「えっ!」と言ったまま、返事を考えあぐね、ゴミ捨て場が見えてくるところまで黙って歩いてしまっていると、

「突然で・・・驚くよね。ごめんなさい。変なこと聞いてしまって。」

と、申し訳なさそう気を使ってくれた。それに引き換え、ダメな僕は事は、

「いやっ、いいよ・・・・・・。」

と、答えるだけで精いっぱいだった。それでも、

「でも、知っておきたいの。」

と、誠実に接してくれていた。