硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

恋物語 28

2021-04-09 20:58:20 | 日記
真島さんは本気で僕の事を好きでいてくれている。僕が平川綾乃を好きなように。
しかし、だからと言って、気を持たしておいていいものか。
いや、平川にフラれても、真島さんと付き合えるのなら、返事を濁しておけばいいじゃないか。いや、それでは、平川にも真島さんにも失礼ではないかという、あやふやな気持のまま落ち着かないでいるのに、真島さんの気持は真っ直ぐなままで揺らぐことはなかった。

「返事は、すぐでなくてもいいんです・・・・・・。川島君が好きっていう気持ちを後悔させたくないんです・・・・・・。」

「けど・・・。」

「大丈夫です。私、待てますから・・・。断られても、大丈夫ですから・・・・・・・。」

「・・・・・・うん・・・。わかった。」

今の僕には、そう答えるしかできなかった。
「待っている」と言われ、決断を迫られる事がこれほどに胸を締め付ける事だなんて思いもしなかった。平川綾乃もこんな思いをしているのだろうか。
真島さんの大きな瞳から涙が零れるのが見えた。
僕は慌てふためきながら、ポケットからハンカチを差し出した。

「汚くてごめん。これ使って。」

真島さんは震える声で「ありがとう。」と言って、僕の手にあるハンカチを一度ぎゅっと掴んだ。その手は透き通るほどに白く小さく、か細かった。そして、三年間、共に同じ学校で過ごしてきたはずなのに、たおやかで、繊細な女性であることを意識した。
その時、僕は、自分が優柔不断である事を悔やんだ。彼女は、自分の気持ちを信じて、涙を流していた。