望遠鏡を使った惑星の拡大撮影は本当に久しぶりだった。撮影用のアタッチメントやアイピースをどこに置いたかのか、それすら憶えていない。竹取庵の階段を上がったり下りたりで小一時間が過ぎてしまった。そのため火星の撮影を終えて時計を見ると午前0時が迫ろうとしている。南の空にはサソリが姿を現し始めていた。サソリの爪の先で輝いているのは、今日のもう一つのターゲットになるはずだった土星だ。
撮ろうかな。少し迷ったが、昼間の仕事の疲れも手伝って、これ以上撮影を続けると運転が怪しくなりそうだ。悔しいけれど帰る事にしよう。地球に最も近づく「衝」は先月末に終わったが、この星の離れ方はゆっくりとしている。まだしばらくは大丈夫だろう。