金沢で生まれた鴨居玲(1928-1985)は、新聞記者の父の転任に伴い、子どものころから転校を重ね、一所に留まらない性分から、南米・パリ・ローマ・スペインを渡り歩きました。各地で出会った社会の底辺に生きる人々をモティーフに作品を制作しますが、そのいずれもが自身を投影した自画像ともいわれます。
ときに、ユーモアに溢れ、芝居っ気たっぷりに、人を煙に巻くかと思えば、絶望感にとらわれ、酒に溺れ、自殺未遂を繰り返す。繊細でひたむきな破滅型の人生が、そのまま暗く沈んだ重厚な画面に、劇的な姿となって表わされています。そして、人の心の奥底に潜む暗部を注視し、己れの内なる孤独と苦悩を吐露しながら、心身を削るように描かれた作品は、見る者の胸に迫り、強く訴えかけてきます。
気になっていた画家、東京駅に向かうのは当然なんですが、その前に到来の三菱一号美術館ニュースで同館サポーターはカード提示で200円割引になると知ったのはgood news!
もろに父親世代なんだ…
かなり鬱屈した、は事前の印象でしたが、それに止まらず恐らくは人懐っこさも持ち合わせたハンサムな画家でスタイリスト、という表面上の人柄が出会った人間と深い人間関係を作らせ、その中で更に双方の心象の中に溝を観たり、本質を観たり…
そうしたものが作品を通して私には感じられました。
かなりの作品数が展示されていたので、逆にそれ程多くのモチーフを持たれていた訳ではない、とも知りました。
色も鮮やかな赤か、暗く沈んだ、でも色んな色味を内在した黒。
一番気になったのは、この日拝見した作品の中の登場人物に囲まれて、ブランクのキャンパスを前に当惑する”私”。
この他、教会シリーズの壁のマチエール、質感、色彩感にも圧倒されました。
この日は最初に暁斎、そしてこの鴨居さん。
相当にユニークな、でもグッと入り込んでくる日本人画家を楽しんだ一日となりました。