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30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記からお送りいたしております。
前回、ラームに誘われ買い物、支払いをインドルピーでしようとしたところ、これまで提示した金額は全部アメリカドルだと聞かされ、まさかの150,000円に意気消沈していた私…、ダッカで知り合ったK君も約束のSホテルにたどり着いておらず、私はその日の夜行で次の目的地プリーへ無理やり旅立つことに。
夜行列車の出発までの時間、ラームたちとともに映画を見ることに…
というところまででした
さて、つづきです
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今夜のプリー行の列車の予約に好青年が走り、おれとラームは近くの映画館へ。
賑わう映画館の前で好青年を待つ。
ちなみにこの時のおれの格好は、インド男の民族衣装、丈の長いシャツにズボン、ピチピチの偽カシミヤセーターを着て、腕にはCASIOと手書きで書かれたプラスチック製デジタル腕時計、背中には迷彩柄のエナメルリュック、のままである。
インドは映画大国である。年間に800本以上もの映画が作られているそうだ。800本!と言えば一日に2本以上の映画が作られていることになる。どれだけ映画好きなんだ。
ややもして好青年が戻ってきた。今夜のプリー行夜行列車のチケットが無事にとれたそうだ。これでおれは、何一つ自分で決めたわけでもないのに、否応なしに明日の朝には南の街、プリーにいることが決定的となった。
チケットを買い、中へ入る。汚く騒々しい。
満員と言うほどではないが、少々混雑した劇場内、おれたちは比較的後ろの方に並んで座り上映を待つ。
おれがインドへ来る前に聞いていた、インドの黒ウワサがいくつかあった。その内の一つに
『ガンジス川には死体が流れている』
というものがあったが、当初おれは、いくらインドだからって、間もなく21世紀になろうかってこの時代に、川に死体が流れていたら、殺人事件かもしれないではないか、いやいや、いくらインドだからって、そんな奴おれへんやろ! と思っていたわけだが、今朝、ガンジスの支流、フーグリー川を見に行ったさい、それが事実であることをラームから聞いた。目の前の、川イルカすら住むという大河、その岸辺のゴミの山、沐浴の人々、確かに死体が流れていても何ら不思議はない、そう思わざるを得なかったのだ。
その他に聞いていた黒ウワサ。
『インドの田舎の方では、お嫁さんが嫁入りしたとき、その嫁入り道具が少なかったり、みすぼらしかったりすると、姑が怒ってお嫁さんを焼き殺してしまう、といことがある』
というものがあった。それを聞いたときのおれの感想はこうだ。
『いやいや、いくらインドだからって、間もなく21世紀になろうかってこの時代に、いくらインドだからって、そんな奴おれへんやろ! 』(大木こだま・ひびき風)
であった。さて、その件につき、おれはこの映画館で真実を知ることになる。
館内が暗くなり、幕が上がる。まずは予告編のようなものが始まる。英語の字幕が下に出るので、どうにか内容を理解することができる。
一通り予告編のような映像が流れ終わると、少し毛色の違う、何かの再現フィルムのようなものが流れ始める。
あるどこかの家、若い女性が椅子に座り、編み物のようなことをしている。そこへ、高齢の女が入ってきて、鬼のような形相で若い女性に向かって怒鳴り散らしている、と言っても無声なので、あくまでも映像だけである。やがて怒り狂った高齢女が、何かの液体を若い女性に浴びせ、マッチに火をつけ、逃げ惑う若い女性めがけて火を放つ…。画面いっぱいに炎が広がり、映像は終了、最後に現地語と英語のテロップが流れる。要約すると
『お嫁さんを焼き殺すのはやめましょう。インド政府広報』
といったものだった。
おれは唖然とした…。『お嫁さんを焼き殺す』習慣がまだ残っている…、事実であったのだ。インド政府広報、というのが何とも生々しいショックを与えてくれる…。
さて、肝心の映画は。
とある高校、その裏庭の花畑、そこを、一体このカルカッタのどこにこんなインド女がいるのだ、と言いたくなるような美しい、おそらくは女子高生のヒロインと、これまた美しい仲間たちが歩いている。美しい女たちが、美しい花と戯れていた、かと思うと、突然不可思議なインド音階に乗り、女たちが艶めかしく踊り出す。
と、それを校舎の方から見ていた、おそらくは、とてもそうは見えないが高校生の男、主人公とその仲間(子分)たち、彼らが女たちの踊りの輪に加わる、突然場面と音楽が変わり、今度は校舎内で男女が入り乱れ踊り出す、踊りが終わると、何がどうなればそうなるのかわからないが、主人公とヒロインがカップルとなる。
その後二人は時に踊り、時に歌い、幸せな時間を過ごしていく。
ある日のこと、高校の不良のボス、と手下たちが、この美しいヒロインに目をつける。一人で下校中のところを襲い、乱暴狼藉を働こうとしたところへ颯爽と主人公と子分たちが登場、瞬く間に不良グループをやっつける、覚えてやがれ!風に逃げていく不良たち。
不良たちは一度アジトのような所に戻り、作戦を練り、復讐を誓う。『高校生』であるはずだったが、彼らは拳銃などの武器で武装し、ヒロイン宅を襲う。そしてヒロイン一家を惨殺し、ヒロインを拉致して去っていく。
それを知った主人公、怒りに打ち震えながらも、子分たちを従え、『高校生』であるはずだが、拳銃、マシンガンなどで武装し、敵のアジトへと向かう。この時、主人公は子分のバイクの後部座席に乗って行くのであるが、どういうわけかバイクの後ろで立っているのである。座席をまたぎ立っているのではなく、座席の上に腕を組んで立っているのである、どうやったらあんな曲芸みたいなことができるのであろう…。
敵のアジトの廃墟ビルに到着。もう最初の学園ものっぽい雰囲気は微塵もない。着くなりいきなりドンパチが始まる。凄まじい撃ち合い、彼らが高校生であることはもうこの際問わない。
主人公たちは次々敵を撃破、遂に不良グループのボスを追い詰める。追い詰められたボスは、ヒロインの手を引き、上の階へと逃げる。後を追う主人公、と思ったら追わない…、いきなりその場でジャンプして、天井を突き破り上の階へ飛び上がる…。
学園恋愛ものから、ギャングアクションもの、ついにスーパーマン系、アクションヒーローもの映画になってしまった。
ボスを追い詰めた主人公、天井を突き破った瞬間に思わずボスがヒロインの手を放したことを見逃しはしない、その場でマシンガンでメッタ撃ち、ハチの巣となったボスはビルから転落、絶命…。勝利した仲間がまたしても最後に踊りだし映画終了…。
以上のように内容は実に下らない、単純でハチャメチャなストーリー、これを休憩をはさみ3時間半も見せられたのだ。
映画館を出ると、辺りは少し薄暗くなっていた。
げんなりとしているおれとは逆に、ラームも好青年も興奮した面持ちである。
『面白かったろ!』
とラーム。
『こんな映画、日本にはないだろ!』
と好青年、
『ああ…、確かにこんな映画は日本にはないよ…。』
ここでラームが突然おれに別れを告げる。
『コヘイジ、ボクもそろそろブッダガヤ―へ帰るよ、この2日間、とても楽しかった、おかげでいい買い物もできた、ブッダガヤ―へ帰ったら君に手紙を書くよ、インドを楽しんでくれ』
後は夜行列車に乗るまで、好青年が面倒を見てくれると言う。
この街に来て、人、犬、羊、牛、車、バイク、リクシャ、騒音とゴミ、その圧倒的なパワーに気圧され、何一つ自分の意志で行動できないまま、南の街、プリーへ向かうべく、おれは好青年に連れられ、大河、フーグリ川に架かる橋をタクシーで渡り、カルカッタのメインステイションへと向かうのであった。
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※注Calcutta(カルカッタ) → 現Kolkata(コルカタ) 記事は30年近く前のできごとです。また、画像はイメージです
令和元年 今の自分自身の感想
インドの黒ウワサは、この他にもあと2つほど聞いていました。それらの真実をいずれまた知ることになります。いずれにしてもすごい国です、インド。