画像引用元 そうだ、世界に行こう インド旅行は危険!?観光時の注意点とリアルな治安状況について
こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。
会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います
前回は、カルカッタの喧騒と混沌、すさまじい勢いで迫りくる人のパワー、その衝撃は一人で味わうべき、と、一緒についてきた前橋君を先に、一人でタクシーに乗らせ市街、魔のサダルストリートに向かわせた、というところまででした
では、つづきです
****************************************************
緊張のあまり身体を硬直させ、まるで競歩の選手のように早歩きをして、タクシーに乗り込む前橋を笑いながら見送ってから30分程が経過した。いよいよ、おれもあのカルカッタ市街に再び向かう時が来た。
『Sudder street』
タクシーのブッキングカウンターで行先を告げる。
『Sixty Rupee』
60ルピーを支払う、荷物持ちの若い男が予約票を受け取り、おれの荷物を担いで外に出る、タクシーの『群れ』の外側の一台に案内される。荷物をトランクに入れるかと聞かれたが、必要ない、と告げ、受け取った荷物をかつぎそのまま乗り込んだ。そして窓を開け小銭を数枚、荷物持ちに渡す。
『Sudder street』
『OK』
いよいよ車が走り出す。空港の近辺は、市街のあの渦巻くような喧騒も混沌もなく、広々として静かだ。ポツリポツリと建っている煤けたビルが、ここが間違いなくインドであることを物語る。そしてここがインドであることが間違いないと実感した瞬間、おれは思わず小さな声でつぶやいた。
『帰って来た……。』
(えっ? 帰って来た…?)
6年ぶりにこの悠久の大地に降り立ち、おれの心にまず沸き起り口をついて出た言葉は、「久しぶりだ」とか「懐かしい」、とかいう感慨では無く「帰って来た」であった。なぜ、今、「帰って来た」と思ったのだろう。この不思議な感情に、おれはしばらく思いを巡らせ、戸惑いながら外を眺めていた。この不思議な感情を正しく、いや、恐らくは正しく理解するのはこの数年後の事である。いや、それも違う、「どこに帰って来たのか」、数年前に気づきながらも、それを言葉にできず、物語を書いた。「無人電車」という名の短編小説だ。その時におれは気づいていたのだ。いずれこの物語もこの場で語ろうと思う。
車は次第に市街の中心に入って行く、徐々に混沌とした喧騒が広がる。
『混沌』『喧騒』
この言葉がこの街ほど似合う街はないだろう。
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛、騒がしいインド音楽、クラクション、あらゆる音、あらゆる色、スパイス、香水、煙、あらゆる匂い、全てのものが交錯している、入り乱れている。
『カルカッタだ!!』
おれはようやく「帰って来た」、ではなく「久しぶり!カルカッタ!」という正常な感覚を取り戻したようだ。
タクシーがサダルストリートに入り停車する、数人の男がおれの車に直ぐに群がる。おれはチップなど何も要求しないドライバーに10ルピーほど渡し、車を降りた。ポン引き達がおれを取り囲む、おれは無視して前橋が待っているはず、のインド博物館を目指す。路上にへたり込んでいるジイサンが弱々しく手を差し出してくる、一先ずポン引きも物乞いも全て無視して大通りまで出る、そして、大きく左に、インド博物館の入口の方へ体ごと向けた。
前橋は!?
いない……。
『ありゃ、やっぱ無理だったか』
凄まじいポン引きや物乞いの攻勢を交わし切れない、そう思ったらインド博物館前の地下鉄乗り場に降りて待つ、繰り返し前橋に伝えていた。おれは恐る恐る地下鉄の入口から階下を見下ろす。
前橋は!?
いない!!
どうしても、インド博物館前に立っているのも無理、その逃げ道としていた地下鉄の階下にもいない!
『あちゃ~、これはヤバイかな…。』
手の無い人、白目だけの人、指の溶けた人、両足を付け根から失い、スケートボード状の板に乗って迫り来るジイサン、そうした物乞い、しつこいポン引き、その攻勢をまるで囃し立てるかのように鳴り響くインド音楽、クラクション、様々な香り、慣れない旅人をたちまち飲み込んでしまう激流のような街、カルカッタ、最初のその衝撃を一人で味合わせたかった、失敗したのか! 前橋! 大丈夫か!!
物乞いやポン引きの凄まじい攻勢に会い、もう何が何だか、最悪どこを歩いているのかもわからなくなったら、タクシーでもリクシャでもつかまえて、地球の歩き方に出ているホテルまで行って待っているようにと印をつけた、これが最後の作戦だったが、比較的ポン引きや物乞いの少ないインド博物館前にも、さらに安全な地下鉄の構内にも行けないのではとても無理だろう、初めてのインド、衝撃の体験をさせようとしたことを、おれは少しばかり後悔した。
念のため、地下鉄の構内まで降りて探してみよう、そう思った瞬間、通路の陰から前橋がひょっこりと姿を見せた。
『こ、こ、こ、小平次!!』
前橋!! なんだ!! その顔! その顔! その顔! その顔は!!!
おれが子供のころ、家で雑種の小型犬を飼っていた。当時は外に犬小屋を建て飼っているのが普通だった時代、おれがある日犬の散歩に行こうとすると、母親からスーパーで何かしらの買い物を頼まれることがよくあった。散歩の途中、スーパーに犬を連れて入るわけにも行かず、棒状のガードレールのようなものに散歩紐を繋ぎ、おれだけスーパーに入ろうとすると、犬は小声ながらもやや甲高い声で吠え、『ボクをおいてどこへ行くの!?』みたいな、ちょっと困ったような情けない顔をしておれを見ている。
『すぐに戻るよ!』
それでも犬は困った顔で小声で吠える、急いで買い物を済ませ犬のところに戻ると、大きく尻尾を振りながら、嬉しいのだけれど、やっぱり一人置いて行かれてちょっと不満、みたいな顔をして、何とも言えない声でやや横を向き少し大きく吠える、その時の犬の顔、表情、前橋!!
『なんでボクを一人で行かせたの? なんですぐに来てくれなかったの? こわかったよぅ!』
今まさにお前、その時の犬の表情!! おれはその前橋の情けないやら嬉しいやら、複雑な表情を見て大笑いしながら言った。
『いやいや、良かったよ、ここまでも辿りつけなかったのかと思って少しだけ心配したよ』
『ああ、ほんと今ほっとした…。』
『やっぱり外にいるのは無理だったか…。』
『いやぁ、だんだん市街に入ってくると、度肝抜かれちゃってさぁ、最初から地下鉄だけ目指して、もう必死だったよ、ほんと、すごいな、この街』
そう言われてみて初めておれは、何かがちょっと違う、と自分が感じていることに気づいた。
『確かに、街のパワーは相変わらずなんだけど、なんかね、うん、そう、あ、物乞いがさ、前より少し少ない気がする、まあ、たまたまかもだけど、前の時はさ、もうほんと、間髪入れず誰かが近寄って来て、ほんの数十メートル歩くだけで一体何人の人間に声掛けられるか、手を差し出されるか、あの時ほどじゃないんだよなぁ…』
『そりゃあれじゃないか、お前がこの街に慣れてから帰国したからそう感じるんじゃないか』
物乞いが減った理由…、インドがいくら経済成長著しい、と言っても、数千年に渡りこの地域に住んできた人たちの本能など変わりようがない、厳しい身分制度の名残、それが急に無くなるわけでもなく、皆に成長の恩恵がある訳でもない、ウソかホントかわからないが、後日プリーで衝撃的な話を聞くことになる。
『ま、とりあえず会えて良かった、一人カルカッタも味わってもらって良かった、ホテル行ってチェックインして、晩飯にチキンチリを食いに行こうぜ!』
『チキンチリ?』
『めっちゃ辛いけど、めっちゃ旨いんだ、病みつきになる感じ、6年前によく行った店がまだあるかなぁ、ま、あとはインドを楽しもう!』
無事に再会? を果たしたおれと前橋は、宿泊予定のホテルを目指し、つい今し方の前橋の、置いてけぼりの犬の顔について語り、大笑いしながらサダルストリートを右に折れた。
つづく******************************
ほんとにこの時の前橋君の顔、心の記憶に焼き付いて忘れられませんw 次回も前橋君がやらかしてくれます
こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。
会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います
前回は、カルカッタの喧騒と混沌、すさまじい勢いで迫りくる人のパワー、その衝撃は一人で味わうべき、と、一緒についてきた前橋君を先に、一人でタクシーに乗らせ市街、魔のサダルストリートに向かわせた、というところまででした
では、つづきです
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緊張のあまり身体を硬直させ、まるで競歩の選手のように早歩きをして、タクシーに乗り込む前橋を笑いながら見送ってから30分程が経過した。いよいよ、おれもあのカルカッタ市街に再び向かう時が来た。
『Sudder street』
タクシーのブッキングカウンターで行先を告げる。
『Sixty Rupee』
60ルピーを支払う、荷物持ちの若い男が予約票を受け取り、おれの荷物を担いで外に出る、タクシーの『群れ』の外側の一台に案内される。荷物をトランクに入れるかと聞かれたが、必要ない、と告げ、受け取った荷物をかつぎそのまま乗り込んだ。そして窓を開け小銭を数枚、荷物持ちに渡す。
『Sudder street』
『OK』
いよいよ車が走り出す。空港の近辺は、市街のあの渦巻くような喧騒も混沌もなく、広々として静かだ。ポツリポツリと建っている煤けたビルが、ここが間違いなくインドであることを物語る。そしてここがインドであることが間違いないと実感した瞬間、おれは思わず小さな声でつぶやいた。
『帰って来た……。』
(えっ? 帰って来た…?)
6年ぶりにこの悠久の大地に降り立ち、おれの心にまず沸き起り口をついて出た言葉は、「久しぶりだ」とか「懐かしい」、とかいう感慨では無く「帰って来た」であった。なぜ、今、「帰って来た」と思ったのだろう。この不思議な感情に、おれはしばらく思いを巡らせ、戸惑いながら外を眺めていた。この不思議な感情を正しく、いや、恐らくは正しく理解するのはこの数年後の事である。いや、それも違う、「どこに帰って来たのか」、数年前に気づきながらも、それを言葉にできず、物語を書いた。「無人電車」という名の短編小説だ。その時におれは気づいていたのだ。いずれこの物語もこの場で語ろうと思う。
車は次第に市街の中心に入って行く、徐々に混沌とした喧騒が広がる。
『混沌』『喧騒』
この言葉がこの街ほど似合う街はないだろう。
人、車、バイク、リクシャ、犬、牛、騒がしいインド音楽、クラクション、あらゆる音、あらゆる色、スパイス、香水、煙、あらゆる匂い、全てのものが交錯している、入り乱れている。
『カルカッタだ!!』
おれはようやく「帰って来た」、ではなく「久しぶり!カルカッタ!」という正常な感覚を取り戻したようだ。
タクシーがサダルストリートに入り停車する、数人の男がおれの車に直ぐに群がる。おれはチップなど何も要求しないドライバーに10ルピーほど渡し、車を降りた。ポン引き達がおれを取り囲む、おれは無視して前橋が待っているはず、のインド博物館を目指す。路上にへたり込んでいるジイサンが弱々しく手を差し出してくる、一先ずポン引きも物乞いも全て無視して大通りまで出る、そして、大きく左に、インド博物館の入口の方へ体ごと向けた。
前橋は!?
いない……。
『ありゃ、やっぱ無理だったか』
凄まじいポン引きや物乞いの攻勢を交わし切れない、そう思ったらインド博物館前の地下鉄乗り場に降りて待つ、繰り返し前橋に伝えていた。おれは恐る恐る地下鉄の入口から階下を見下ろす。
前橋は!?
いない!!
どうしても、インド博物館前に立っているのも無理、その逃げ道としていた地下鉄の階下にもいない!
『あちゃ~、これはヤバイかな…。』
手の無い人、白目だけの人、指の溶けた人、両足を付け根から失い、スケートボード状の板に乗って迫り来るジイサン、そうした物乞い、しつこいポン引き、その攻勢をまるで囃し立てるかのように鳴り響くインド音楽、クラクション、様々な香り、慣れない旅人をたちまち飲み込んでしまう激流のような街、カルカッタ、最初のその衝撃を一人で味合わせたかった、失敗したのか! 前橋! 大丈夫か!!
物乞いやポン引きの凄まじい攻勢に会い、もう何が何だか、最悪どこを歩いているのかもわからなくなったら、タクシーでもリクシャでもつかまえて、地球の歩き方に出ているホテルまで行って待っているようにと印をつけた、これが最後の作戦だったが、比較的ポン引きや物乞いの少ないインド博物館前にも、さらに安全な地下鉄の構内にも行けないのではとても無理だろう、初めてのインド、衝撃の体験をさせようとしたことを、おれは少しばかり後悔した。
念のため、地下鉄の構内まで降りて探してみよう、そう思った瞬間、通路の陰から前橋がひょっこりと姿を見せた。
『こ、こ、こ、小平次!!』
前橋!! なんだ!! その顔! その顔! その顔! その顔は!!!
おれが子供のころ、家で雑種の小型犬を飼っていた。当時は外に犬小屋を建て飼っているのが普通だった時代、おれがある日犬の散歩に行こうとすると、母親からスーパーで何かしらの買い物を頼まれることがよくあった。散歩の途中、スーパーに犬を連れて入るわけにも行かず、棒状のガードレールのようなものに散歩紐を繋ぎ、おれだけスーパーに入ろうとすると、犬は小声ながらもやや甲高い声で吠え、『ボクをおいてどこへ行くの!?』みたいな、ちょっと困ったような情けない顔をしておれを見ている。
『すぐに戻るよ!』
それでも犬は困った顔で小声で吠える、急いで買い物を済ませ犬のところに戻ると、大きく尻尾を振りながら、嬉しいのだけれど、やっぱり一人置いて行かれてちょっと不満、みたいな顔をして、何とも言えない声でやや横を向き少し大きく吠える、その時の犬の顔、表情、前橋!!
『なんでボクを一人で行かせたの? なんですぐに来てくれなかったの? こわかったよぅ!』
今まさにお前、その時の犬の表情!! おれはその前橋の情けないやら嬉しいやら、複雑な表情を見て大笑いしながら言った。
『いやいや、良かったよ、ここまでも辿りつけなかったのかと思って少しだけ心配したよ』
『ああ、ほんと今ほっとした…。』
『やっぱり外にいるのは無理だったか…。』
『いやぁ、だんだん市街に入ってくると、度肝抜かれちゃってさぁ、最初から地下鉄だけ目指して、もう必死だったよ、ほんと、すごいな、この街』
そう言われてみて初めておれは、何かがちょっと違う、と自分が感じていることに気づいた。
『確かに、街のパワーは相変わらずなんだけど、なんかね、うん、そう、あ、物乞いがさ、前より少し少ない気がする、まあ、たまたまかもだけど、前の時はさ、もうほんと、間髪入れず誰かが近寄って来て、ほんの数十メートル歩くだけで一体何人の人間に声掛けられるか、手を差し出されるか、あの時ほどじゃないんだよなぁ…』
『そりゃあれじゃないか、お前がこの街に慣れてから帰国したからそう感じるんじゃないか』
物乞いが減った理由…、インドがいくら経済成長著しい、と言っても、数千年に渡りこの地域に住んできた人たちの本能など変わりようがない、厳しい身分制度の名残、それが急に無くなるわけでもなく、皆に成長の恩恵がある訳でもない、ウソかホントかわからないが、後日プリーで衝撃的な話を聞くことになる。
『ま、とりあえず会えて良かった、一人カルカッタも味わってもらって良かった、ホテル行ってチェックインして、晩飯にチキンチリを食いに行こうぜ!』
『チキンチリ?』
『めっちゃ辛いけど、めっちゃ旨いんだ、病みつきになる感じ、6年前によく行った店がまだあるかなぁ、ま、あとはインドを楽しもう!』
無事に再会? を果たしたおれと前橋は、宿泊予定のホテルを目指し、つい今し方の前橋の、置いてけぼりの犬の顔について語り、大笑いしながらサダルストリートを右に折れた。
つづく******************************
ほんとにこの時の前橋君の顔、心の記憶に焼き付いて忘れられませんw 次回も前橋君がやらかしてくれます