
画像引用元 そうだ、世界に行こう。バックパッカーの登竜門!インドの寝台列車あるある10選
こんにちは
小野派一刀流免許皆伝小平次です
以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。
会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います
前回は、前橋が赤ん坊を抱いた物乞いの女性にあめ玉を渡し、すごい形相で睨まれて、ショックを受けまた一人芝居でその女性に言い訳してる姿を私が見てしまい、2日連続で大笑いさせてもらった、というお話でした
では続きです
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プリー行きの夜行列車の切符を買い、翌日、おれにとって人生最大級の思い出の街、プリーに向けてカルカッタを旅だった。一等列車は快適で、おれと前橋の他、ついぞプリー到着まで他の客は来なかった。早朝、カルカッタの喧騒と混沌がウソのような、全く正反対ののんびりとした街、プリーに到着した。
駅前は6年前と全く変わっていなかった。数人のサイクルリクシャー引きの男たちが、やわらかでやさしく、ふわふわとするような陽ざしの中、特に客引きをするでもなくのんびりと座っていた。
『あああ、懐かしい…、プリーだ、帰って来た。。』
おれは言葉にできない複雑な感動を覚えた。
『話してた友人、バブーの伯父さんが経営してるホテル、前回ずっと宿泊してたそのホテルへ行こう』
『道は覚えてるのか?』
『ああ、忘れるわけない』
駅前から通りに出て右に曲がる、後は一本道、ずっと西へ向けて歩けばそのホテルだ。バブーの伯父に会えばバブーともすぐに会えるだろう、おれはそう軽く考えていた。
『この道からどこか左に曲がれば海がある、後で行ってみようぜ、白い砂の広い海岸線、すごく綺麗だから』
『おお、楽しみだな、それにしても、お前の言ってた通り、カルカッタとは天国と地獄くらいの違いを感じるよな』
そう、あの混沌と喧騒の極みのような街、ゴミだらけの汚い街、カルカッタからここに来ればだれもがそう感じるだろう。
ほどなくして、おれが以前泊っていたホテル付近に着いた。だが、おれの目に焼き付いている黄色とスカイブルーの壁の、あのホテルが見当たらない、おれは記憶を頼りにその道をもう少し歩いてみる。
『いや、ここの角までは絶対に来ない、駅からだとこの手前にあったはず。。』
『道間違えてんじゃないのか?』
『いや、絶対にそんなはずはない、やっぱりここにあったはずだ』
おれたちは角から引き返し、あのホテルがあったはずの場所まで戻った。そこには見覚えのない小さな建物があるだけだった。
『うーーん…。』
ちょうどそこへ通りかかったサイクルリクシャ引きの若い男を呼び止めた。
『ここに、以前黄色とスカイブルーの壁のホテルがあったと思うんだけど、無くなったのかな?』
『ああ、そのホテルは去年無くなって、家族もどこかへ引っ越したよ』
瞬間、実際にそんな経験は無いが、スタンガンを当てられたような電気ショックがおれのつま先から頭のてっぺんまで走った、ような気がした。あの、とろんとした目をしたオーナー、将来確実に美人になるだろうと思えた3歳の娘マリア、オーナーの奥さん、二階のバルコニーでご馳走を振る舞ってくれた時の思い出、おれの部屋に勝手に入り込みバッグを物色して楽しそうにするマリアの笑顔、まさしく走馬灯のようにあの時の記憶がおれの頭を駆け巡った。
『そんな。。。』
本当にショックであった、こんな場面は全く想定していなかった。そんな姿のおれにサイクルリクシャー引きの男が言った。
『他のホテルに行くなら乗って行くか?』
まあ、いくらショックを受けたとて、この状況は変わらない、おれは一縷の望みを託し、男に言った。
『ここにあったホテルのオーナー、その甥っ子でバブー・ドラって言う男がいたんだけど知らないかな?』
『その男は知らないな、でも、そういうことに詳しい男なら知っているよ、その男はいつも海岸線のホテルの裏庭でカードで遊んでいる』
『じゃあ、そのホテルに宿泊するのでそこまで行ってくれ』
おれと前橋は座席に乗った。ホテルが無くなっていたことはショックだったが、おれはこの旅行の直前まで心を病んでいた、それでもこうして自転車に引かれながら風を切って走っていると、やはりここに来て良かった、心底そう思えた。
男が案内してくれたホテルは、コンクリートがむき出しで塗装もしていないが、5階建てのそこそこ立派なホテルであった。フロントで料金を聞くと500ルピー、まあ悪くない、そのホテルに宿泊することにした。部屋は3階であった。部屋の前から海が一望できた、悪くない。おれと前橋は部屋に荷物を放り込むと、すぐにサイクルリクシャー引きの男が言っていた裏庭へと急いだ。

裏庭は、少しの芝生と背の低い数本の木があるこじんまりとしたところであった。そしてそこには、カードゲームに興じていた五人ほどの男達がいた。少しの間、その光景を眺めてからおれは男達に尋ねてみた。
『すまないけど、だれかバブー・ドラ、と言う男を知らないかな』
すると、カードを手にしたまま、芝生に横になっていた髭面の男がこっちを見て答えた。
『バブー・ドラなら知っている、何か用か』
『実は、ボクは6年前にこのプリーにしばらくいたんだけど、その時バブー・ドラと友人になった、だから会いたいんだ、彼の伯父が経営していたホテルが無くなってしまっていて困っている』
髭面はカードを伏せ、横になったまま尋ねてきた。
『君の名前は? いつまでここにいる?』
『名前はコヘイジ・サワダ、多分そう言えばバブーはわかると思う、プリーには一週間いるつもりだ』
『わかった、ここに連れて来てやる、ルームナンバーを教えてくれ』
おれはルームナンバーを書いたメモを渡し、礼を言ってその場を去った。そして、メシを食うために、あのシメンチャローが働いていたレストラン『ミッキーマウス』に向かった。
『良かったなあ小平次!でもあのオヤジ、本当に連れて来てくれるかな?』
『さあ、どうだろうな…。』
そう、インドを旅行した人はよく『インド人は噓つきだ』と言う。だが、長く旅をしてみるとわかることがある。ごく普通のインド人は基本的にはシャイだ、普段外国人と話す機会なんてそうはない、そんな人たちに道を尋ねると、どうにか自分が役に立ちたい、そう思って、本当はロクに知らないのに答えてしまうのだ。中々一般の日本人の感覚からは理解できないが、確かにそうなのだ。だからおれは、大きな期待は寄せず、会えたらいいな、くらいの感覚で待つことにした。
さて、6年前良く通った『ミッキーマウス』はまだあるだろうか。12歳だったシメンチャローは18歳になっている、おそらくは『ミッキーマウス』ではもう働いていないだろう。シメンチャローにも会えたらいいな、それもあまり期待せず、おれは前橋と海岸線の通りを東に歩いて行った。

**********************************つづく
今回は日記をつけていなかったので、細かいことは忘れてしまっていて、どうしてホテルが無くなってしまったのか、潰れてしまったのかとか、覚えていないんですけど、割と裕福だったバブーの伯父家族、綺麗な制服を着て幼稚園へ通っていたマリア、ちょっと胸が締め付けられたことはよく覚えています。