作者は佐藤玄々。完成は昭和35年、この時71歳。
高齢のため、自分では手をかけることはなく、弟子・技術者数百人が各部を担当して完成したという。佐藤玄々は、メガホンと指揮棒を持ち、ガラス越しにまるで映画監督のように制作を指揮しました。
こうして高さ11メートル、6750キロの天女が降臨したのです。
東京日本橋・三越百貨店に入って立てば、誰でもこの降臨像を拝むことができます。正面下から見上げる、あるいは正面から上がり2階回廊からまっすぐに見つめる、左右に移動しながらゆっくりゆっくり、時の移ろいを楽しむかのように、角度の変わる天女を見るのもよい。そうして、真後ろに立って、目の高さにある天女の後ろ姿を拝むこと、肩に止まる鳳凰や背にくつろぐ孔雀を見ることだってできる。
衣の、複雑で絢爛な模様と色とりどり、光背は炎に包まれたようにも、光に覆われたようにも見え、その中央に立つ天女。たおやかでふくよかな顔、掌の柔らかく盛り上がったぬくもり、降り立ったばかりの今にも踏み出しそうにはね上がった厚みをもった足の指、この天女像をこんなに贅沢に鑑賞、いや拝ましてもらっていいのでしょうか。しかも、ただで・・・(もちろん、デパートの商品を買うのは自由です)。
初めてここで見たときは、なにやらバカでかいモニュメントがあり、一時的な客寄せに造った安物の大型瀬戸物みたいな張りぼてオブジェという印象でした。これが、樹齢500年のヒノキからできた、制作年数10年を超える彫刻だとは思いもよりませんでした。除幕式に参列した当時の政財界の大物たち、最前列の吉田首相などは幕がとり払われた瞬間、唖然としてしばしぽかんと口が空いたままでした。そのあまりに見事な、巨大な天女像に誰しも驚きを隠せなかったのです。当時の皇太子夫妻(今の天皇・皇后両陛下)の姿もありました。(これらの様子は先日のTV番組「美の巨人」で放映されました。)
見て飽きない。いろいろな仏像を見てきましたが、そうそうありません。これを仏像と言っていいかわかりませんが、仏教では、天(天女)は、六道のうち人間と菩薩の中間にあるのですから、ひとくくりに仏像と言っていいでしょう。それにしても、仏像にしてはまばゆく、天女にしてもあまりに美しく、目がくらみます。その色彩と模様の中に自分が迷い込み、包み込まれ、溶け込んでしまいそうなめまいを感じます。