免許を取ったのは、30代ですから遅いほうでした。子どもはすでに小学校中学年で、そろそろ親と行動を共にしなくなる頃です。
最初に乗った車はカローラでした。納車までの2週間ほど、会社から帰ると、毎晩、これから届く車のカタログを繰って、隅々まで眺め、そこからまるで新しい世界が繰り広げられる夢に浸ったものです。車のある生活―。
子どもが親との行動から離れていくまでの数年間、惜しんでいろいろな所に乗って行きました。思わぬ効果は、妻と買物や近場のドライブに行く時に、車の中で二人だけの空間と時間を持てたことです。狭い空間では自然に、普段のこと、子どものこと、仕事や親族のことなど、たわいもないこと、心配なことを話せたものです。
車が離れていった日
車好きな人は、何を犠牲にしてまでも車を持ち、カーライフを楽しむでしょう。私もそうでした・・・。でも、車は、我が家から離れていったのです。
もちろん、あったほうがいい。しかし、以前から乗る距離は多くなかったし、現在では、仕事がら乗る機会がだいぶ減って、月に100キロも乗るか分かりません。
車の購入費を別にすると、駐車場代、車検代(オイル交換や修理代を含む)、自動車保険料、税金、これらをひと月にならすと2万円以上、年間25万円になります。ガソリン代は別です。150万円の車を5年間乗ると、これに年間30万円加わり、月に4~5万円かかります。これだけの負担をしながら、月数回、市内での買物車として考えると、どうも“ペイ”しないのです。
車を何回か買い換えてきました。しかし、寂しいことに、これからのライフプランを考えると、どうしても、家計の大きな見直しはそこにいってしまいます。車については、年間数十万円にもおよぶ見直し断行なのであります。
今月中に車検が迫っていたこともあって、車査定屋に連絡したら、あっという間に格安の値段で査定し(まだ1万キロちょっとしか乗ってません)、翌日には持っていってしまいました。その速きこと、風車(ぱたぱたかけ回って、さっと吹いていった)のごとしでした。気持ちの整理がつかないうちに。妻は、表面では合意していたけれど、二度と会えなくなる我が子を遠くへ見送るように、哀しそうにじっと、車が持ち去られるのを見つめていました。
なんだか、ちょっと落ち込みました。「勘定」は「感情」ではありません。いくら節約できたとしても、車で家族の心がつながっていたなら、持ち続けていればよかったのです。
月に1回、近場のドライブしかできなくても、市内の買物しかできなくても、休日に大型スーパーにいっしょに出かけるだけでも、妻にはそれが楽しみだったのです。それだけのために、月5万円の“車を楽しむ会費”を払っていたと思えばいいじゃないか。
それにしても、妻の切り替えは早いほうでした。せめてもの慰めかもしれませんが、車を手離した以上、これからは貯蓄が目標になったようです。それが、妻なりの代償だったのでしょう。
我が家はまた、車がなかった時代の「自転車隊」に戻りました。妻の心を和らげるためにも、休日はできるだけいっしょに自転車で買物に行きます。車に乗りたいときは、近くに格安レンタカーもあります。そのうち、カーシェアリングも普及するでしょう。
初めて我が家に来たカローラのカタログ。今もボロボロになったまま棚に載っています。