今年は、宮沢賢治生誕115年です。
宮沢賢治というと、不思議な言語感覚を持った人だと思います。寒空に清冽に光る星のイメージを私は持っています。冴え冴えと、それは晴れた冬の空に輝く星、すっきりと、暗い蒼空に線を引いていくような言葉。時に、宇宙語のような言葉です。
ある意味、宇宙人の言葉だったのでしょう。
『よだかの星』などは、小学校だったかに教科書に出ていた作品ですが、初めて読んだ時、そんな印象でした。少年期にもわかる物語ですが、その宇宙の意味を理解したのはずっと後です。『風の又三郎』なども不思議な童話で、これも教科書などに載っていたと思いますが、この世にないようなそんな印象が残っています。
賢治の言葉は、仏の言葉です。ですから、その奥まで知らない人間には「宇宙人」の言葉に聞こえるのでしょう。賢治は法華経の信者でした。仏陀の言葉がある程度分かり始めると、哀しいけれど美しい賢治の声の響きが分かってきます。
私が最も好きで、何といっても賢治の代表作と思うのは『銀河鉄道の夜』です。本で読んでも忘れられない作品ですし、1985年にアニメ映画化された作品(ますむらひろし原案)は、この作品をイメージ化した最高傑作ではないでしょうか(その後、この作品は何度も再放送されています)。
映画の『銀河鉄道の夜』は、映像としては登場人物をすべて猫に擬人化した作品ですが、これがまったく違和感なく成功しています。音楽としても細野晴臣の作曲が素晴らしく、物語を引き立てています。
悲しい物語ですが、とても美しい心になれる、奥深い作品です。人間が、宇宙へ宇宙へと結びついていく、そんな宗教的な芸術作品です。
賢治は岩手県花巻出身の詩人・童話作家であると同時に、宗教者でもあり地質学者、農学の実践者でもありました。死ぬまで土を愛し、東北の土を何とかしようと努力した人です。まさに土の上に死んでいく貧しい人々の役に立とうとした人です。そんな賢治だからこそ、心に響く「宇宙人の言葉」を吐くことができたのでしょう。
賢治が生まれた年、岩手は大きな地震にあい、甚大な被害を蒙りました。それから115年、またしても大地震で荒れた東北の土を見て、賢治は今どのように思っていることでしょう。
― 今、『雨ニモマケズ』を読むと、ほんとうに涙ぐむ思いです。