FPと文学・エッセイ 〜是れ日々なり〜

ライフプラン、資産設計のほか、文学・社会・芸術・文化など気まぐれに日々、FPがつづるエッセイ。

21世紀型バブルはまた、いつ来て、いつ弾けるか

2009-04-14 07:17:26 | 経済・金融・ビジネス
サブプライムローン問題に関する本はいくつか出ていて、読んでもみました。新聞でも雑誌でも特集記事が出ていますから、一般的なことは分かります。しかし、この問題がバブルの本質に関わっていると深く踏み込んだものはあまりないようです。

その中で、半ば定番になりつつある本があります。『すべての経済はバブルに通じる』(小幡積・著 光文社新書)。数カ月前に読んだものです。読み返していて、この著者は本当に、ものごとの本質が分かっている人だなと思います。難しい内容をより難しく、簡単なことをもっと難しく、ちょっとわかりにくいことをそれなりに分かりにくく、教科書的なことは教科書のように書く“頭のいい人”はいっぱいいます。えてして、そういう著者は、引用の引用で、元ネタ本をいくつか手元に置いているのでしょう。しかし、小幡氏のこの本を読んでいくと、あたかも手に取って調査し、体験し、自明のように自説が展開されていきます。

おかげで、多少はバブルの本質的なことについて分かってきました。今回のサブプライムローン問題は、アメリカ発祥のバブルです。みんなが皆、バブルと分かっていて、バブルのはしごから下りられなかったのです。特に、その道のプロ(金融業界)ほど。

思えば、1980年代の日本で最初のバブルも異常でした。こんなことが長く続くはずがないと思いつつも、皆が夢に浮かれていたのです。いや、浮かれているふりをしていたのです。いつ、泡が弾けるかびくびくしながらも、まだ大丈夫、まだ大丈夫、少なくとも自分がいい目を見るまでは・・・、とバブルが続くのを願い、踊っていました。

21世紀型バブルは、どうやって避けられるか

最初のバブルの後も、ITバブル、そして今回の住宅バブルと、バブルは繰り返されてきました。これからも形を変えたバブルが繰り返されるでしょう。小幡氏は、今後起こりうる21世紀型のバブルを「キャンサー型キャピタリズム」における「リスクテイクバブル」と名づけています。つまり、金融資本が自己増殖していく癌(キャンサー)ようなバブル、サブプライムローンの証券化に見られるように、金融工学を応用して進んでリスクを取っていく(レバレッジ型の)バブルです。

この21世紀型バブルは、まだ始まったばかりだと小幡氏は告げています。これからも、実体経済に大きな悪影響を及ぼすバブルは起こりうると警鐘を鳴らしています。それに対して、私たちはバブル崩壊のこの激しい苦悶から逃れることはできないのでしょうか。それについて著者は明言してません。

解決法は、この1~2年、アメリカはじめ世界、日本でもどういうことが起こり、どういう行動をとったかを検証してみることで、あることが見出せるかもしれません。住宅価格高騰、サブプライムローンでの借入れ、金融機関によるローンの証券化、こうした流れの現象は一個人では止められません。しかし、この現象下では、所得に合わないローンは組まない、分かりにくい証券は無理に買わない、という当事者としての最低限の経済行動は取れたかもしれません。ただ・・・、バブルがバブルと分かっていて、乗り遅れるまいという衝動的な行動となると、なかなか止められるものではありません。




分かりにくい金融商品の広告をどう読み解くか

2009-02-08 11:23:07 | 経済・金融・ビジネス
最近増えた円定期預金の広告

円定期預金の金利が良くなっています。つい何年か前までは金利が0.01%で、100万円を1年預けても100円しか利子が付かず、引き出し手数料のほうが高くついて元本割れしてしまうくらいでした。それが、この間までネット系では1%を超える金利も珍しくなくなりました。ネット系以外の銀行でもキャンペーン金利などで高めの金利が付いています。

これ自体は喜ばしいことですが、問題はこうした金融商品の広告です。真剣に身構えて読まないとどういう仕組みなのか分かりにくいし、じっくり読めば読むほど分からなくなってきます。実際に一般の人は分かるのでしょうか。「金利にプラス□%の上乗せ」という謳い文句だけで誘われると、どうなるか・・・。

今回は詳しく説明しませんが、中には「仕組み預金」もあり、預金と言いながら、市場金利によっては元金を割ってしまうものもあります。金融破綻で悪者扱いされているデリバティヴ(プットオプション)を仕組んだもので、償還条項に満期日を金融機関側で決めることができると定めてあるので注意が必要です。(デリバティヴそのものが悪いのではありません。)

ここでは、そういう金融工学を使ったものではない定期預金を見ています。A大手銀行の最近の新聞広告を見ると、退職時期に合わせて退職金運用向けのサポートプランが載っています。5段(新聞1頁のほぼ3分の1)のスペースに一目見ただけで、気持ちが悪くなるほど細かい数字でびっしり文章が書かれています。

まず、預けるお金は、退職金でなければだめです、ということです。わざわざ、退職金が振り込まれた口座の預金通帳や退職所得の源泉徴収票など、確かにあなたが退職金をもらったという証拠となるものを持ってきてくださいと、まるで税務署か何か、役所の手続きみたいに書かれています。要するに、既設口座からの振り替え預けでなく、新規でそれだけの大口なら、いい扱いをしてあげますよ、ということでしょう。

読みづらくてわかりにくい広告

問題は、預けるだけのメリットがあるかどうかです。1回通しで読み回しても、複雑な説明が多くてよくわかりません(私の頭が悪いのか、広告を書いた人が優秀なのか)―。預ける金額や期間によっていくつかプランがありますが、仕組みはほとんど同じです。あるプランでは退職金を預けるうちの50%以内を6ヵ月の円定期預金にする、その6ヵ月間は店頭表示金利にプラスして年3.5%(税引後年2.8%、6ヵ月だからこの半分)を上乗せするというプランです。同時に残りの50%以上は3年間の定期預金に預け入れることになる。この分は、店頭表示金利になります。

50%以内の6ヵ月円定期は自動更新されますが、自動更新後は店頭表示金利になり、6ヵ月の満期前に中途解約すると、中途解約利率がかかって受取利息が0円になることもある、とあります。ただ、こうした留意すべき点は、長くてたくさんある文章の中に埋もれて、なかなか見つかりません。ほかにも、びっしり説明文句や注意書きなども丁寧に書かれていますが、一般の人がとても読む気にはなれないでしょう(私は仕事柄、細かく読みますが最後まで読むにはけっこう意志が要ります)。

このプランが悪い商品というわけではありません。仕組み預金ではないので、中途解約しなければ元金保証で、預金保険制度対象にもなっています。6ヵ月分の円定期の利息は少し魅力ですが、恩恵は6ヵ月のみです。それに、退職金の残り50%以上を3年定期預金に預けるのなら、ほかに有利な金利があれば、わざわざ6ヵ月定期と3年定期に振り分ける必要もなく、退職金全額まとめてそちらの商品にしてもいいのではないでしょうか。

大口定期の店頭表示金利を見ると、6ヵ月では年利0.17%、3年では0.35%となっていますから、総額で比較してみると、退職金1000万円なら3年定期の金利がだいたい0.45%以上なら、いっぺんにそちらの商品に預けたほうが得になります。逆に0.45%以下なら、A銀行のプランが得になります。退職後の生活費として、6ヵ月後すぐに引き落として使う予定があるなら、このA銀行のプランで、6ヵ月定期の満期分は使いようがあるかもしれません。

このレベルの金融商品について、こと細かく書かれてあるのは、A銀行というより、金融商品取引法上の広告表示の規制があるからなのでしょう。必要なことはすべて書けという親切細かい説明はありがたくはありますが、無理して分かりにくい広告を出すほどなのか、逆効果のようにしか思えません。

※このブログは、金融機関とは直接関係を持っていません。あくまで自由に私見を書いています。金融商品の判断はご自身でなさってください。



2008年 世界で車が売れなくなる日

2008-12-10 02:09:23 | 経済・金融・ビジネス
むなしきカー・オブ・ザ・イヤー

今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーはトヨタの「iQ」が受賞しました(同時にグッドデザイン大賞も受賞)。正直、次はカーシェアリングかレンタカーを利用すれば足りる、もう車を持つ生活とはお別れだと思っていました。しかし、この車を見て次の買い換えはコレだと思ったくらい気に入ってしまいました(ほんとに買い換えるかどうかは別ですが)。デザイン、機能性と燃費性、安全性、コンパクト(1000cc 全長2985mm)な割のユーリティティと高級感、環境への配慮、これだけすべてそろった車が150万円から買えるなんて画期的、さすが世界のトヨタ! と思わず言いたいところです。
― あの9月さえ来なかったならば・・・。

「すべては、リーマンから始まった」―、とは言い切れません。確かに、実体経済はリーマン・ブラザース破綻の9月から急激に悪化しました。しかし、もう何度も言い尽くされたサブプライム・ローン問題は昨年以前から始まっていたのです。

ビッグ3(GM、フォード、クライスラー)のCEOが公聴会で、3人首を並べて米国国会議員に食いつかれていました。「社用ジェット機で来た人は?」「ジェット機を売って、電車で帰ろうという人はいない?」。普段なら、こうした場面は、強い者いじめ好きの日本人にはけっこう受けるところです(その後、ビッグ3のトップは報酬を1ドルにし、社用ジェット機も売り払ったとか)。しかし、ビッグ3で340億ドル(3兆2000億円)の政府資金が必要だと聞いた時、背筋が寒くなる思いでした。日本は大丈夫なのか、と。

明日からは自分の問題

米国自動車が売れなくなる。世界中で自動車の需要が落ち込み、雇用がなくなる。日本の自動車も売れなくなり(日本車の輸出がなくなる)、自動車関連業界も巻き込み、大量の失業者が出ます。ことは、製造業界全体にも及んでいます。日本では、今年度中に非正規労働者3万人が職を失うであろうと言われています(厚生労働省12月発表)。もうすでに、来年3月までの雇用契約を12月で打ち切られ、いきなり「路頭に迷うか、死ぬ」(ある派遣社員のインタビュー)しかないような切迫した状況です。そして、大企業の正社員にも解雇通告が出始めています。

今は、麻生首相はじめ政府官僚は、「百年に一度」と言われる未曾有の金融危機のせいばかりにしている場合ではないでしょう。麻生首相は、賃金アップと雇用保険の料率下げを同時に経済界に訴えていましたが、この両者が両立する状況ではないのは素人でも分かります。まず、雇用確保です。

政府はようやく、追加雇用対策を発表しました。今後3年間で2兆円規模の事業費を投入して140万人の雇用の下支えを目指すといいます。2兆円といえば、「天下の愚策」と言われた定額給付金と同じ額です。何週間ももめたあげく、税金をばら撒くようなことをしないで、なぜ景気対策、雇用対策に早く取り組まなかったのかと思います。経済は政策を待ってくれません。迷走と同時にスピード感がないのも内閣不支持の原因でしょう。

明日にもまた解雇者が出ると、誰しも自分は大丈夫かと思うでしょう。「クビを切る」という言葉は、恐ろしい言葉、恐ろしい文字です。「解雇」という意味で、こんな戦慄的な言葉を使うのは日本語だけではないでしょうか。食べるため、寝るためのお金の手段を取り上げられてしまえば、まさしく、その言葉通りになってしまう状況にあるのです。



「サルにも負ける」投資論(下)

2008-11-20 01:32:10 | 経済・金融・ビジネス
「神の手」に勝てない論者たち

富裕層向けにサービスが始まったラップ口座。最近では300万円から口座が開設でき、こちらはファンドラップとも言われます。プロのファンドマネジャーが資金を丸ごと運用してくれます。しかし、成績は芳しくないといいます。「プロが下手だから」と言って、口座を開設したばかりの投資家が解約していくそうです。プロが下手なのか、市場環境が悪化している時期なのか、はたまた投資家が「神の手」よりはるかに高い成果を求めているのか-。

アクティブ運用が悪いのではありません。巨額の投資資金を預かって、投資家の高い欲望に応える(運用者自身も高い報酬を得る)には、市場の成果をはるかに超えるための投資手法が必要です。ファンドマネジャーは決して無能ではありません。高度な金融工学や統計学、財務知識を駆使して、最新のポートフォリオ理論をマスターし、細密な調査を積み重ねた上で星の数ほどある中から銘柄を組み合わせていきます。そうした彼らがなぜインデックス運用に勝てないのか。それは、「神の手」に勝てないのではなく、人間の欲望というものに勝てないだけなのです。

50年前に日経225に1万円を投資していれば、50年後の今には500万円の株価になっています。経済は資本主義の宿命として半永久的に成長を続けなければならない。市場にさえ投資していれば誰でも投資額が10倍、100倍にもなりうる・・・。これが現代投資理論の帰結のように言われています。しかし、アクティブ・パッシブ論争は途絶えたわけではありません。「市場と同じ相場に投資するのが投資といえるのか」、というアクティブ論者の声があります。また、アクティブがパッシブに負けた、と断言しない論者もいます。


無理な投資に向かない日本人

いずれにしろ、今まで貯蓄に慣れ親しんできた日本人、プロを雇えるほど富裕でない日本人の多くは、今のところ無理な投資をするよりはインデックスファンドやETFのように「市場」に投資するほうが、無難ではないかと思えてきます(それでもリスクはあります)。

「貯蓄から投資へ」という掛け声に決して踊ってきたわけではない(踊れなかった)日本人。かつて、10年で元本が2倍になる時代、私たちは投資の理論など必要ありませんでした。銀行や郵便局に放り込んでおけばお金が2倍になるということを知っていたからです。また、家計資産のうち、年収に数倍の梃子(レバレッジ)をかけた負債(住宅ローン)をもつ日本人が、そうそうリスクの高い投資行動に移れるものではありません。これまで貯蓄に励んできた日本人は、じつは「サルにも負けない」投資法を知っていたのかもしれません。

投資は必要だといいます。しかし、投資を学べば学ぶほど、投資の本質が分からなくなる時代です。投資とは、いつも増えるものではなく、いつ減るかわからないもの、なのです。将来、お金が足りなくなる、だから今のうちから投資に励めと言われます。でも、それは「運用しないからお金が足りなくなる」というふうに論理がすり替わっています。お金が足りなくなるのは投資しないからではありません。支出が多いか、収入が足りないかです。足りなければもっと多く、もっと長く稼ぐ、あるいは反対にお金を節約すればいい。投資はそれからです。生涯たかだか数百万円程度しか投資できない私たちにとっては、運用の専門家向けの投資理論がそのまま当てはまるものとは思えません。

私たちは、せいぜいサルと一緒にバナナを食べたあと、その皮を「市場」に放り投げてやりさえすればいいのです。そこには「神の手」(インデックス)で組まれたポートフォリオがあるのだから。

「サルにも負ける」投資論(上)

2008-11-19 01:43:16 | 経済・金融・ビジネス
「市場」に投資する正道

今また、インデックスファンドに加えて、ETFが注目されています。インデックスファンドとは、日経225やTOPIX(東証株価指数)、ニューヨーク・ダウなど指標の動きに合わせて投資するファンドで、いわば「市場そのもの」、分かりやすく言えば、市場の平均と同じ投資成果を求めるものです。いっぽう、ETF(Exchange Traded Fund、指数連動型上場投資信託)は、簡単に言えば上場しているインデックスファンドのようなもので、上場株式と同様の取引ができます。手数料の面でも投資信託より安い。最近、商品(コモディティ)や金の価格に連動するETFまで上場されています。

「今また」と書いたのは、指標に連動させるインデックス運用は、ある時期から投資の正道のように言われていたからです。『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキール著)だったと思いますが、アクティブ(積極)運用はパッシブ(消極)運用(=インデックス運用)に勝てないということを言っています。アクティブ運用とは、市場の平均を超える運用を目指すものです。

ファンドマネジャーは、インデックス(ニューヨーク・ダウ工業株35種)に対してどれだけの確率で勝てるか、という実験が米国で行われたことがあります。結果は、勝ったり負けたり。いや、負けのほうが込んでいました。つまり、運用のプロ、ファンドマネジャーは市場の平均にさえ勝てなかったのです。素人が個人で、ニューヨークのダウ指標と同じ銘柄に投資しても、運用のプロが独自の調査と手法に基づいて積極的(アクティブ)に成果を得ようと運用しても、結果はさして変わらないということになったのです。ここからファンドマネジャー不要論まで出ました。


目隠ししたサルの投資法

株式相場が酔っ払いのようにランダムに動く(ランダム・ウォーカー=千鳥足の酔っ払い歩き)なら、サルがやっても同じです。サルに目隠しし、銘柄ボードめがけてダーツを投げさせ、的が当たった銘柄順にポートフォリオを組んでいってもファンドマネジャーに勝てる。ここから「サルにも負ける」と言われるようになりました。

相場がランダムに動く、その動きを人間は予知できない(予知できれば皆が金持ちになるでしょう)。だから、サルに目隠しして的を当てさせる投資でいいと言われたのです。市場を知るのは「神」のみで、「市場には神の手がある」と言われました。インデックスの動きには、まさに「神の意思」が宿っているのだから、サルにも勝てない人間がそれを超えることなどできっこないという論調が強まりました。せいぜい、「神の手」で描かれた線(チャート)の上を、酔っ払いみたいに千鳥足で歩くのみです。

それでも「神の意思」に逆らおうとしたのが人間で、「神」を超えようとするアクティブ論者と、「神」に従順になろうとするインデックス論者との「対立」が始まったのです。市場と同じ確率で、同じ成果を出すことに満足していれば、「神」の子のままでいればよかった。しかし、人間の欲望がそれを許さなかったのです。

資産は増殖させなければならない―。そう望む投資家の欲望を満たすために、高い顧問料が払われて運用の専門家が雇われました。こうして「高収益を目指すファンド」が誕生したのです。(下に続く)