鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

水辺風景図鐔 平安城象嵌 Heianjo Tsuba

2010-11-04 | 
水辺風景図鐔 平安城象嵌


水辺風景図鐔 平安城象嵌

 この風景はいかなる意識の下で描いたものか、大変興味を抱くものである。
 以前にも紹介したが、室町時代の応仁頃に製作されたと考えられている鉄地に真鍮地で点象嵌と線描写を施した応仁鐔がある。この流れを汲むものであろう、室町時代から桃山時代にかけて鉄地に真鍮地で文様を施した鐔が多々あり、平安城象嵌(へいあんじょうぞうがん)と呼び分けている。呼称については、京都で製作された象嵌鐔という意味で捉える程度にされたい、流派や作者についての呼称ではなく、詳細は不明。
この鐔はその一つ。とある風景を捉えていることは確かだが、おそらく現実の風景を取材したものではなく、まさに心象表現を試みたと推測している。このような創作意識は、鐔に芸術性を取り入れはじめた桃山頃と思うのだが、さて、この意識は唐突に誕生したものであろうか、次第に高まっていったものであろうか。文様表現は古拙を狙っているのであるか、技巧的であり、作者の感性はすこぶる高い。技術も決して稚拙ではない。
 水辺の木に掛けられた籠であろう、その下には波があり、岩があり、下草があり、苔のようなものも生えている。せり出した岩の上に木の枝が伸び、松ぼっくりのようなものもある。裏面は、波の中に籠があり、水に落ちた籠を意味しているのであろうか、岩や木や下草の表現は表と同様。美しいとは言いがたいが、不思議な魅力に包まれている。